幽霊マンションシリーズ。
『だんだんはっきりと見えてきた 前編』の続き
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧
42 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/21(土) 15:47:35 ID:OlDPaXD80
妹が緊急入院したのだという。
職場で貧血を起こし、そのまま意識を失って倒れたのだと。
慌てて病院に駆け付けると、憔悴した様子の姉が迎えてくれた。
妹の方はベットで点滴を受けていた。
つい先程意識を取り戻し、今はまた眠っているのだそうだ。
「命に別状はないみたいなんだけど・・・」
そう言った姉は不安そうに言葉を続けた。
「お医者さんに調べてもらっても、理由がわからないっていうの。
鉄分の欠乏による貧血じゃないかって言われた。
血液中のヘモグロビンとかが異常に減少しているみたいで・・・。
でも、いきなりなのよ。
健康診断の結果でもいつも健康体だって、あの子太鼓判押されていたのに。
取り敢えず増血剤の投与で小康状態になったから、しばらく様子を見ましょう、そう言われて・・・」
姉は途方にくれたような顔でそう告げた。
話を聞いて、嫌なイメージが頭に浮かぶ。
顔だけ老婆の着物姿が、彼女の上にのし掛かって、血を啜るイメージ。
43 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/21(土) 15:51:19 ID:OlDPaXD80
何とかその想像を追い払い、元気づけようと口を出した。
いや、単なる貧血だろ。
女性には実際、多いっていうじゃないか。
最近オカルト事に振り回されてて、食生活でも乱れてたんじゃないのか。
姉はじっと私を見つめてきた。
「…本当にそう思う?」
思わなかった。
姉妹二人とも料理が達者で、味だけでなく栄養計算までしっかりとこなしている。
特に妹はそちら関係の資格まで持っていた筈だ。
またどちらも健康オタクの気があり、部屋にはサプリメントの類が山とある。
貧血の知識にしても、私などより余程詳しいだろう。
溜息を深く吐くと、一つ姉に確認することにした。
知ってるか、夜中に変な老婆が出てたって。
「いや、聞いてるけど、私には全然見えないし。
あの子もここ数日は口にも出していないよ」
あの老婆な、色が変わってたんだって。
真っ白だったのが、日を追う毎に、真っ赤に染まっていってたんだと。
血でも吸われてるんじゃないか、妹のやつ。
44 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/21(土) 15:54:29 ID:OlDPaXD80
姉は色のことは知らなかったらしい。
私から事の顛末を聞いて、顔が蒼白になる。
まぁ、流石に吸血鬼みたいなモノが存在してるとは信じてないけど…。
でも何か関係あると思うぞ、絶対。
今直ぐにあの部屋を出ろって。
幸い今、妹の症状は落ち着いているんだろ。
今から部屋に戻って必要なものだけ取って、今夜からあそこで過ごすなって。
これまでになく強い調子で忠告した。
例の遠くを見るような表情はもう見られず、以外に素直に姉は同意してくれた。
どうやら妹が危機に陥ったことで、姉の憑き物は落ちたようだ。
「わかったそうする。でも怖いからついてきて」
・・・あ。俺、失敗したかも。俺も行かなきゃダメ?
しかしここは自分の忠告である。
仕方なく姉を連れて、あのマンションへと車を走らせた。
言い出しっぺは自分だが、堪らなく嫌だった。
74 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/23(月) 18:36:11 ID:IrGv8t+x0
マンションに着いたが、いざ車を降りて部屋に向かうのはかなりの勇気がいった。
いろんな噂を聞いているだけに、これは致し方がない。
時間は夜の九時を過ぎた辺り。当たり前だが、誰の姿も周囲には見えない。
心を落ち着かせ、仕事で使っている工具箱と道具を手に、ようやっと車外へ出た。
姉は怪訝そうに私の装備を見ていたが、特に質問はしてこなかった。
ホールに入りエレベーターを呼ぶと、姉はジト目で私を睨んだ。
「あのさー。誰かが・・・いや何かが乗ってたらどうするの?」
大丈夫だろ、多分な。
何となく、そんな予感がした。
マンションの他の部屋でも、怪しい出来事は治まっていたと聞いている。
・・・怪異を起こしていたモノは、ほとんどが姉妹の部屋に集っているのだろうから。
そのまま何事もなく七階に着く。
部屋の前に立ち鍵を取り出していると、聞き慣れた音がした。
カチンッ
中には誰もいない筈なのに、鍵が独りでに開いた。
姉が「どうしよう?」という顔でこちらを見る。
私と言えば、全身に鳥肌が立っていた。
話に聞くだけというのと、いざ実際に目の当たりにするというのでは、怖さのレベルが全然違うのだと実感してしまう。
75 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/23(月) 18:37:45 ID:IrGv8t+x0
しかし、いつまでもそこで立ち往生している訳にもいかない。
ゆっくりとドアを開けて、電気を点けた。
やはり中には誰の姿も見えない。
ヒンヤリとした空気が流れ出してくる。
部屋に入る前に、ドアに挟まるような位置で工具箱を床に置く。
これでドアがカッチリと閉まることはない。
「何してるの?」
姉が不思議そうに聞いてくる。
中に何がいるのか知らないが、ドアの鍵が開けられるということは、
逆に鍵を閉めることも可能なんじゃないか、って思って。
俺、こんな時間にこんな所に閉じ込められたくないし。
・・・まぁ、まず、そんなことは起こらないと思うけど。
今考えると、最後の台詞は、多分に願望が入っていたと思う。
「・・・聞くんじゃなかった。
今の今まで思い付きもしなかったよー」
姉は心底ゾッとした表情で嘆いた。
とにかく覚悟を決め、二人で恐る恐る中に入ることにした。
拍子抜けするほど、別に何も怪事は起こらなかった。
ただ、なぜか部屋内の気温がひどく低い。
まだ夏だというのに、足の先から震えが上ってくる。
76 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/23(月) 18:39:33 ID:IrGv8t+x0
何にせよ、長居したくない雰囲気であるのは間違いない。
姉は初めこそオドオドとしていたが、やがて落ち着いたのか、事務的にテキパキと荷物をまとめてだしている。
私は部屋についているドアというドアをすべて開け、固定していた。
何かあった場合、直ぐに飛び出せるように。
しばらくしてから、姉が何か言いたそうにこちらを見た。
終わったの?と聞くと
「後一つだけ。持っていきたい写真があるん」
持っていけばいいじゃない。
待っているから早くしなよ。
「それがね、トイレの中にあるんよ。タンクの上」
言いにくそうに口にした。
・・・何で大事な写真をトイレに置くんだよ。
愚痴りたくなったが、あまり男らしくない行動に思えたので、黙ってトイレに向かった。
あ、嫌な予感がする。
トイレに着き、入ろうとドアに手を伸ばすと、またもや音がした。
ガチャリ
やっぱりだ。鍵を掛けられた。
77 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/23(月) 18:41:36 ID:IrGv8t+x0
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、ドライバーとピンを取り出す。
幸い、このタイプのトイレドアは仕組みも構造も知っている。
間もなく、ハンドルを内部の鍵ごと取り外すことに成功した。
タンクの上に置かれた姉妹の写真を手にトイレから出てみると、姉は呆れた顔をしていた。
「あんた、泥棒になれるんじゃない?」
俺がバラせるのは、あくまでも室内の簡単な錠だけだから。
ちょっとした裏技みたいなもんだから。
荷物はそれで全部かい?
じゃあもう出るぞ。
・・・本当のことなのだが、どうしてか自分でも言い訳めいて聞こえてしまう。
ドアノブを元に戻し、入り口の工具箱を回収し、エレベーターで一階まで下りた。
来た時と同様、特に何も起こらなかった。
有り難いといえば有り難いが、不安といえば不安である。
何となく、後ろを誰かが着いてきているような気がして仕方がなかった。
その感覚は車を出して、走らせている最中もずっと続いていた。
88 :本当にあった怖い名無し:2009/03/23(月) 23:45:05 ID:szwkBT2D0
雷鳥なる人物の書き込みは嫌いでもないから普通に読んでたけど、
>>77のトイレのドアのくだりはいただけないな・・・。
大概の家のトイレの鍵は、中で人が倒れて開けられなくなると困るから外からマイナスドライバーで開けられるはず。
ドアノブはずさなくても開けられるはずだよ。
みんな、自分ちのトイレで試してごらん。
123 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/24(火) 21:25:13 ID:WZDMLMy80
取りあえず、姉を場末のホテルへ送り届けた。
ごく普通のビジネスホテルだが、先程まで滞在したマンションに比べれば、まるで極楽のようにくつろげた。
何より空気が軽い。部屋も明るく感じられた。
しばし話をする。
姉はもうすっかり、あのマンションを引き払う決意をしたようだ。
相談の相手になりながら、心底ホットする。
どうやら、もう二度と彼処には行かなくても良さそうだ。
引っ越しの段取りや、彼女の実家へ連絡をしたりしていると、急に寒気がした。
・・・いつの間にか、周りの空気が冷たく冷えている。
「幽霊の出る直前には気温が下がるって、そう言えば誰かに聞いたなぁ・・・」
そんな碌でもないことを思い出していると、突然、部屋の隅で音がした。
バタンッ!
二人ともびっくりして飛び上がる。
必死で抱き付いてきた姉を背中に庇いながら、音のした方へ目を向けた。
冷蔵庫の扉が引き開けられていた。
124 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/24(火) 21:25:54 ID:WZDMLMy80
どこのホテルでもある、冷凍庫のない小さな冷蔵庫だ。
すぐ中にストッパーが付いていて、コーラ等の飲料缶がそこで止まっている。
グイッと引き出せば、チェックアウトの時に精算されるタイプの奴だ。
しばらく様子を窺ったが、それ以上は何も起こらない。
「前に利用した人が、よく閉めていなかったんだろな」
そんな軽口を叩きながら、二人揃って苦笑いを浮かべた。
「まったく驚かせてくれるわね」
姉はそう言って立ち上がると、扉を閉めようと冷蔵庫へ向き直った。
次の瞬間。
バラバラバラッと、中に収められていた飲料が吐き出されてきた。
呆然とする私たちを尻目に、飲み物はすべて床の上に転がった。
ペタンと腰を落とした姉を避け、冷蔵庫を調べてみた。
ストッパーは硬く、かなり力を込めないと中身が出せない構造になっていた。
一体何が缶やペットボトルを引っ張り出した?
いや、それとも押し出したのか。
いくら考えても答えは出なかった。
126 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/24(火) 21:38:22 ID:WZDMLMy80
え~、雷鳥です。
取り敢えず、この姉妹に関するマンションのエピソードはこれで全部なのです。
尻切れトンボみたいですが、まぁえてして現実ってのはこんなモノですねぃ。
この後、即行で引っ越しを済ませた姉。
一週間程度で復活すると、先に引っ越した姉の元へ転がり込んだ妹(友人)。
新居でも、時偶今回のようなポルターガイストちっくな現象があったみたいですが、どれもすぐに治まったようで。
現在は二人とも元気に過ごしております。
この時の影響かどうか、何やら引っ越し癖が付いているみたいですが(苦笑)。
自分も「コレでやっと縁が切れたよホント」などと考えていたのですが。
いや、正確に言うと縁は切れています。
ただ気になることがあって、少し調べてみたのですよ。
ああ本当に余計なことを・・・。
何が気になったかというのは、正に>>88でID:szwkBT2D0さんが指摘されたことだったりします。
(あまりにも的確な指摘だったので、当時話を聞いていた関係者か?と一瞬疑ってしまいました)
トイレのドアがですね、何故か普通の部屋などに付けられるタイプの、飾り気無い代物だったのですよ。
前に「姉が入ろうとするとトイレのドアが閉められる」というエピソードを書き込みしましたが、
その時も呼ばれて、自分が確認していたのです。
「あれ?これおかしいぞ?」と姉妹には話したのですが、
大家に談判するのも面倒くさいということで、二人ともスルーしていたみたいですが。
127 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/24(火) 21:45:55 ID:WZDMLMy80
それから少し気を付けて内装や据付家具を見ていたのですが、
何というか、どことなく奇妙な取り合わせがそこかしこに見受けられまして。
他の部屋に入ったことのある業者仲間に聞いてみたところ、部屋によって色々と違いがあることまでわかったのですが。
前の話にも出て来た、不動産関係のお姉さんから、
え~~~・・・?
みたいな話も聞きまして。
いや、確証はない話ばかりなのですよ。
ただ、何か凄く不気味というか嫌というか・・・。
と言う訳で、明日以降に書き込む予定の話は、すべて私の脳内で補完された妄想だということにしておいて下さい。
本当に想像の域を出ないんで。
そんな類の話は嫌いだという方には、予め断っておきます。
どうかスルーして無視してやって下さい。
『変な改装ばかりしているマンション』に続く
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