幽霊マンションシリーズ。
『ドアを開けてしまった』の続き
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧
12 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/16(月) 21:14:08 ID:8SM5XBnN0
友人の話。
彼女ら姉妹の部屋であれだけ頻繁に起こっていた怪事が、サッと鳴りを潜めた。
丁度夏に入る頃だったという。
世間話がてらご近所に聞いたところ、彼らの家でも静まったらしい。
「誰かお払いでもしたのかな?」
何にせよ、騒ぎが起こらないに越したことはない。
それから少しの間は、ごく平穏な日常を過ごせたのだそうだ。
暑さが日に日に辛くなってきた頃。
夜中にふと目が覚めた。何か物音が聞こえたような・・・。
手元灯を点けてみたが、部屋にいるのは自分と姉だけだ。
ぐっすり眠っている姉を確認し、明かりを消そうとした時。
部屋の隅から何か出てきて、目の前を横切った。
白い足型の物体。草履の底みたいに見えるもの。
それがトストスと軽い音を立てて、壁の中へ消えていった。
見なかったことにして明かりを消し、眠りについたのだという。
13 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/16(月) 21:15:00 ID:8SM5XBnN0
その夜から、毎日のようにそれが枕元を通り抜けるようになった。
決まっているかのように、現れるのはいつも深夜一時過ぎ。
日に一度だけ枕元を通り過ぎる。
それが出るようになって五日目、渋る姉を何とか説得して、一緒に目撃してもらうことにした。
息を殺して時間を待つ。
時間通り、その日もそれは現れた。
壁に溶けて消えた時点で、姉に「見たでしょ!アレ一体何だろ?」と話を向ける。
しかし姉は奇妙な顔をしてこう答えた。
「音は確かに聞こえたけど、私には何も見えなかったよー?」
「どういうことなんだろねー?」
これまでは同じモノが見えていた筈なのに。
二人で首を傾げたそうだ。
この話を聞かされて、私は嫌な感じを覚えた。
マンションに出る何かが、ターゲットを友人一人に絞ったかのような、そんな気がして仕方なかった。
口に出しては言わなかったが。
14 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/16(月) 21:15:41 ID:8SM5XBnN0
それから少し後、友人から連絡があった。
「一時十分のアレね、だんだんはっきりと見えてきたよー。
少しずつ厚さが増してきてね、今では白い足袋になったん。
そう、着物の時に足に履くやつ。
足首から下だけが相変わらずトストスと歩いてる」
前から散々言ってるけどさ、直ぐにでも引っ越してそこ出ろよ。
手伝うからさ。よく知らないけど取り憑かれてからじゃ遅いぞ。
そう進言したところ、彼女の目が急に泳いで、遠くを見るような表情になる。
「んー、考えとく」とそれだけ口にして、別の話題を始めた。
別の場所で、姉にも引越しを進めてみたが、妹と似たような表情でかわされた。
・・・あー、これはもう憑かれてるんかな・・・。
ふとそう思ったが、所詮は他人だ。どうすることも出来ない。
オカルトっていうのは、実際どこにも相談する機関が無いのが厄介だと実感した。
何かあったら連絡くれ。それだけを念押ししておくのが関の山だった。
22 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/18(水) 20:26:36 ID:bm7imf4m0
それからもちょくちょく、友人から報告があった。
「今ね、膝まで見えてるん」
「昨晩は背中まで現れてた。帯止め可愛かったよー」
「肩まで出てきた。もう少しで全部見えるかも・・・」
総じて考えると、白い着物姿の少女の姿が、足元から徐々に積み上がっていっているようだ。
小学校の低学年くらいの背丈らしい。髪は腰の少し上まである。
お前怖くないのか? 聞いてるこちらは気持ち悪くてどうしようもないんだが。
「んー、あまり。そう言えば何でだろうね、以前はすごく怖かったのに」
嫌な感じだけが、夜毎夜毎に増えていった。
23 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/18(水) 20:27:58 ID:bm7imf4m0
そんなある晩、寝ていたところを携帯の着信音で起こされた。
見れば友人からの電話だ。
寝惚け眼で、どうした?と聞いてみた。
「今ね、さっきね、ついに全身が現れたん!」
興奮した声が耳元で響く。
何故だろう、急に目が冴え、嫌な汗が噴出した。
「それでね、いつものようにトストス歩いて過ぎたんだけど。
今日は何故か、少し進んだ所でピタッと立ち止まって。
これまでなかった行動だから、ビックリして動けないでいると、
いきなりその子が振り向いたんよ!」
「そしたらね、顔がね、顔だけが、皺くちゃのお婆ちゃんだったの!
背格好は子供なのに。
ニヤァって気持ち悪い笑み浮かべて、そこでパッと消えちゃった。
うー、気持ち悪いよー!」
その後も彼女は何か大声で訴えていたが、詳しくは覚えていない。
ただただ、嫌な感じだけが私の背中を這い登ってきた。
とにかく早く会話を終わらせて、その電話を切りたかった。
24 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/18(水) 20:29:58 ID:bm7imf4m0
それからも定時になると、着物姿は枕元を通り過ぎていたという。
全身が見えるようになってはいたが、それ以外は何も変化がなかったらしい。
直に彼女も無視して構わなくなっていた。
一週間ほど経って、再び奇妙な夜の電話があった。
「あのね、あの顔だけがお婆ちゃんの幽霊がね、変なの。
上から下まで髪以外は真っ白だったんだけど、それが足の先から、段々と色が着いてきてるみたいなの。
今はほぼ足首から下が真っ赤な状態だよ。
これって何かの前触れなのかな?」
こちらに相談されてもわかる訳がない。
しかし赤色というのが気になった。
聞けばその赤は血の色にそっくりで、何となく嫌な雰囲気なのだそうだ。
老女が腰まで朱に染まったという電話を最後に、友人からの夜の電話は途絶える。
何となく、こちらから連絡するのは躊躇われた。
姉から緊急の連絡があったのは、それから四日後だった。
『だんだんはっきりと見えてきた 後編』に続く
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