幽霊マンションシリーズ。
『派遣先のマンション』の続き
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part36∧∧
105 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 17:29:44 ID:TBYa9b350
仕事先で、顔見知りのお婆さんと再会した。
この人、つい先日まであのマンションに住んでいたのだ。
そんなに親しい訳でもなかったが、興味もあってちょっと話題を振ってみた。
「やっぱりみんな、怖い思いをしてたんだねぇ」
したり顔で頷いた。すると貴女も?
「私の部屋じゃ、声がよく聞こえてたよ。声の主は見えなかったけど。
ほとんどが意味を成さないようなことばかりくっちゃべってた。
“うー”とか“ありふりありぶり”とか、そんなのの羅列ばかり」
確かに意味不明ですね。
「それがさ、一回だけ明瞭に聞こえたんだよ。
娘が初めて孫を連れて遊びに来た時のことなんだけど」
何て言ってたんです?
「“ご飯だ!ご飯だ!”って、狂ったようにそればかり繰り返してくれてね。
何がご飯だい、こりゃ私の孫だってね。でも聞き入れりゃあしない。
声が聞こえるのは私だけだし、まったくくたびれたよあの時は。
それから直ぐにあそこを引き払ったんだ。負けたようで悔しかったけどね」
何と返したらいいのか、さっぱりわからなかった。
106 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 17:30:22 ID:TBYa9b350
住民から聞いた話。
夜遅くに、自分の部屋で雑誌を読んでいた。
BGMとしてお気に入りのCDを聞きながら。
最後まで聞き終わったら、別のCDに変えるつもりだったという。
ふと目を上げて時計を見、違和感を覚える。
おかしい。雑誌を手にしてから小一時間は優に過ぎていた。
だのに、全曲で五十分足らずのこのCD、演奏が全然終わっていないのだ。
曲順を確認すると、まだ半分ほどしか再生されていないことになる。
途中でリピートでも掛かったかと思いプレイヤーを確認したが、ノーマルのままで何の設定もされていない。
聞き流していたけど、そういや、さっきからずっとこの曲を聴いている気がする。
不審と同時に興味を覚えた彼女は、そのままプレイヤーを眺めていた。
やがて曲が終わると、そのまま普通に次の曲へと移る。
と、プレイヤーの後ろ、壁との隙間から、白くて薄っぺらい物が滑り出てきた。
手だった。女のそれに見えたという。
指が器用にREWのボタンを探り当て、操作を行うと、またあの曲が頭から始まる。
手は満足したようにゆらりと一回揺れて、スルッと隙間に吸い込まれて消えた。
慌ててプレイヤーに駆け縋り、持ち上げてそこの一角を凝視した。
何もない。何の変哲もない床と壁の継ぎ目があるだけ。
107 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 17:30:54 ID:TBYa9b350
ふと、これまでにあった奇妙な出来事を思い出す。
外出から帰ってくると、CDが掛かりっ放しになっていたことが、何度かあった。
自分が消し忘れたかどうかしたのだろうと考えて、あまり気にしていなかったが。
・・・ひょっとして!?
その夜の内に、白い手がお気に入りだと思われるCDを、全部棚の奥に仕舞い込む。
彼女自身のお気に入りもあったのだが、背に腹は代えられない。
加えて現在、使わない時にはCDプレイヤーのコンセントを抜いておくのだそうだ。
あの手がどれくらい知恵あるのかわからないけど、今のところは独りでに起動した形跡はない、そう彼女は言っている。
108 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2008/01/03(木) 17:31:23 ID:TBYa9b350
「あそこのマンションで、面白いっていうか興味深い話を聞いてきたよ」
知り合いがそう話し掛けてきた。
彼女は不動産関係に従事している者で、私と友人との共通の知り合いでもある。
「うちじゃあの物件扱っていないから、業界筋の話なんだけどね。
あの子の上の部屋に問い合わせがあったらしいの。
そうそう、少し前に飛び降りがあった部屋。
担当は早いトコあの部屋を処分したかったみたいで、気合いを入れてたんだって」
不動産屋ってのも因果な商売だな。
「まあね。問い合わせてきたのは、私たちと同年代の女性だったらしいんだけど。
この人、現地確認の時に猫を連れてきたんだってさ。
『すいません、ここではペットは飼えないんです』って担当が断ったら、
『ああ気にしないで下さい。私の猫じゃなくて友達の猫なんです。
家を見る時には立ち会って貰ってるんです』ですって。
奇妙に思ったんだけど、ならいいかって考えて、そのまま部屋に行ったのね」
「鍵を開けて中に招き入れた途端、フーッ!!って唸り声が上がったの。
そう猫よ。腕の中に抱かれたまま、全身の毛を逆立てて唸ってたんだって。
そうしたらその女性、それ以上部屋内に入らないままで言ったの。
『御免なさい、私やっぱりこの部屋駄目です』
で、そのまま帰っちゃって、この話は無かったことに」
猫、何か見えてたのかな?
「さぁ? 猫と話が出来る人じゃないとわからないわね。
でもその時の担当も言ってたけど、その猫マジで欲しいなぁ。
こっそり連れて行けるから、陰のアドバイザーとしては凄く優秀よ」
商売人の目になって、彼女はそう言った。
『跡』に続く
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