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投稿者「よしきり ◆4lTInXds」 2023/01/13
知人から聞いた話。
彼の家は、餅の置けない家だった。
餅を置いておくと、お化けが出るという。
そのお化けはつきたての餅が大好きで、つきたての餅を置いておくと、家人の目を盗んで食べてしまう。
気づくと餅が減っていて、やられた、となるのだそうだ。
知人が子供の頃は、正月になると祖父が餅つき機で餅をついて、のし餅を作っていた。のし餅は、つきたての餅を袋に入れてのし、保管する。袋に入っているので、お化けに盗まれない。そういうものなのだという。
「餅は食うまで切るな。切ったら早う食いきれ」
そういう決まりだったという。
とはいえ、つきたての餅は美味いものだ。
お化けでなくても食べたくなるもの。
知人もそれは同じで、餅をつく祖父に頼んで、つきたての餅をわけてもらっていた。その場できなこやあんこをまとわせて食べてしまえば、お化けには盗られない。
ある年の正月も、知人は祖父からつきたての餅をわけてもらった。丸めた餅を、砂糖と合わせた甘いきな粉に落とす。コロコロと転がして一面にまとわせ、さあ食べようとしたところで、インターホンが鳴った。
知人はちょっとそちらを見た。
祖父は熱い餅を袋に入れるのに苦心していた。
他の家族は近くにいなかった。
ほんの一瞬、誰も餅を見ていない時間があった。
知人が視線を戻したときには、もうきな粉餅は消えていた。
「そりゃ泣いたよ。餅がなくなってるんだもん」
知人はその時のことを思い出すと、未だに腹立たしさを覚えるという。
楽しみにしていた、大好きなきな粉餅。それがほんの一瞬で盗まれたのだ。それはそれは悔しくて、悲しくて、なにより腹が立ったという。
「正月の思い出と言われると、一番に思い出すよ。餅が取られたって大泣きしてさ。親父には笑われるし、お袋には呆れられるしで散々だった」
「餅は食えなかったのか?」
「いや。じいちゃんがもうひとつ餅をくれて、それを泣きながら食べた。あと、姉ちゃんに『アンタほっぺとかお腹とか、おもちみたいだし。間違って盗られちゃうかもね』っておどかされて、夜にまた泣いたのも覚えてる」
「いい思い出じゃないか」
彼は非常に不服そうだったが、否定はしなかった。
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