∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part63∧∧
『ワタリビシャク』
89 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/10(火) 18:17:47.99 ID:7z/4eY+20
先輩の話。
仲間と二人で山歩きをしていた時のこと。
遠くの方からシャンシャンッと甲高い音が聞こえてきた。
音がする谷間の方を見やると、何か細長い物がこちらに向かって飛んでくる。
白木で作られた柄杓だった。普通に水汲みに使われる代物だ。
あっという間に頭上に達すると、柄杓はいきなり裏を返してその中身をバラ撒いた。
信じられないほど大量の水が降いでき、二人ともずぶ濡れになってしまう。
呆然とする先輩らを残し、柄杓はシャンシャンと唸りながら元来た方の谷へ消え去った。
相棒が教えてくれた。
「ここの山にはワタリビシャクってのが出るとは聞いていたが、まさか自分が目撃する羽目になろうとはね。
いや、別に悪い物じゃないらしい。
こいつに水を掛けられると、ここに入山中は水に困らないんだってさ」
「確かにあそこは水場が極端に少ない山系だけど。
でもその時のルートは、水場をしっかりと確保出来るものだったんだよなぁ。
有り難迷惑な柄杓だった」
そう言って先輩は苦笑した。
『ヒトリ』
90 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/10(火) 18:21:07.18 ID:7z/4eY+20
山中間の話。
学生時代、部活で夏山を縦走していた時のことだ。
そろそろ宿営の準備をしようかという頃合に、丁度良い平地を見つけた。
しかし先輩達はそこを避け、もう少し先でキャンプするよう指図する。
「ここ、何か駄目な理由でもあるんですか?」
何とはなしに尋ねると、先輩の一人が教えてくれた。
「あぁ、ここら辺にゃヒトリが居るからなぁ。
地の人はヒトリマとも読んでるけど」
と続けながら、ライトを取り出して彼の目の前で点灯した。
ライトは普通に点灯したのだが、段々と光が弱くなり、やがてすぅっと電池が切れたかのように消えてしまった。
「これ部の備品で、まだ電池替えたばかりなの知ってるよな。
この平地から離れたら、普通に使えるようになるから。
何故かここって、かなりの確率でライトや火が消えてしまうんだ。
だから”火獲り”って、昔から呼ばれてるらしいよ」
確かにそこを離れると、消えたライトは再び点るようになったという。
不思議なこともあるモンだなぁ、と感心したそうだ。
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