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投稿者「ほしな ◆YZpuwgGc」 2019/10/16
勝手口にはオバケがいる。
腹を空かせたオバケが。
祖母がまだ若かった頃の話だ。
その日、祖母は家であずきを煮ていた。すると勝手口の向こうから声がした。
「あずき一粒、砂ひとつ。あずき十粒、石ひとつ。あずき百粒、銀ひとつ。あずき千粒、金ひとつ」
子供の声だったという。
「やらんやらん。あっち行き」
祖母はそう言い返した。
「あずき八十、銀ひとつ」
声はそう言った。
「やらんったらやらんち。あっち行き。こんあずきは神さんにあげる大事なあずきだで、やるわけにゃいかん」
「くれんか?」
「やらん」
祖母がそう言うと、声はそれ以上返ってこなかった。
またある時、祖母は芋をふかしていた。
するとまた声がする。
「芋ひとかけ、石ひとかけ。芋半分、銀ひとかけ。芋ひとつ、金ひとかけ」
「やらんやらん」
祖母はやっぱり断った。
「芋半分、銀ひとつ。芋ひとつ、金ひとつ」
「やらんっち言うとるで!」
一喝すると、声はそれ以上返ってこなかった。
「うちの勝手口にはね、腹を空かせたお化けがいたんよ」
私に話を聞かせた母は、そう言った。
「お料理してると、よくそうやってねだられるんだってお祖母ちゃんは言ってたわ。お祖母ちゃんのお母さん、あんたのひいばあちゃんの代からいてね。ひいばあちゃん、一回だけ取引したことがあるんだって」
「お腹のひとつ、金一山」
曾祖母は、祖母の弟か妹がお腹にいるとき、そういう声をかけられた。そしてどういうわけか、その取引に乗ってしまった。
するとその直後、曾祖父にずいぶんと割りのいい仕事が入ってきた。その上、仕上がりがよかったからと報酬は割増、さらに別の客まで紹介してもらい、あっという間に金一山に値する収入を得た。しかし、その時曾祖母お腹にいた子は流れてしまったのだという。
「ひいばあちゃんはねえ、それを悔いていたみたいよ。それでお祖母ちゃんには、絶対取引しちゃいかんと何度も言ってたんだって。私も言われたよぉ。どんなに生活が苦しくったって、あれの取引には乗っちゃ駄目よと」
そう語る母もまた、私が赤子の頃、同じような取引を持ちかけられたそうだ。
背中に私をおぶって、台所仕事をしていたとき。
「背中のひとつ、金一山」
確かに、勝手口からそう聞こえたという。
母は祖母の話を思い出して、やらんよ、と答えたそうだ。
「背中の半分。金一山」
「やらんって」
なおもいい募る声を拒み続けていると、勝手口の声は残念そうに。
「腹ぁ、へったなあ」
そう言って、それきり黙ってしまったそうだ。
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