∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part53∧∧
『芸』
805 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2011/04/11(月) 20:19:37.86 ID:+fK9W2me0
先輩の話。
学生時代、仲間内でキャンプをおこなった時のこと。
シーズンから外れていたせいか、キャンプ場は彼らの貸切状態だった。
夜ともなればもう宴会状態で、酒の勢いもあって散々盛り上がっていたらしい。
「次は誰が芸をする番だー?」
呂律の回らない声で先輩が叫ぶと、背後の闇中から女性の声がした。
「次は私」
・・・今の誰だ? 一気に酔いが覚め、ぞくりと辺りを見回した。
次の瞬間、濡れた物がビタビタビタッと彼らの頭から降り注ぐ。
魚だった。生きた魚が大量にキャンプ地に投げ込まれてきたのだ。
慌ててテントの中に逃げ込むと、魚の雨はすぐに止んだ。
恐る恐る外に顔を出すと、そこかしこで川魚がピチピチと跳ねている。
声はそれきり二度と聞こえなかったという。
魚は皆で可能な限り戴いたそうだ。
「誰かはわからないけどちゃんと礼も言っておいたよ。
見事な芸でしたって。魚ありがとうって」
『花見』
806 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2011/04/11(月) 20:20:44.37 ID:+fK9W2me0
知り合いの話。
誰も居ない夜の公園で、一人花見を楽しむことにした。
そこは山奥にある城跡を利用した公園で、日が落ちると誰も来ない穴場だという。
バイクで乗り入れると、思った通り人の姿はない。
園内に進み、桜が集まっている横手に腰を下ろす。
曲がりなりにも施設なので、それなりに外灯が点いており、夜桜を見るには十分だ。
淡い桜色を堪能していると、何処からかボソボソと人の声が聞こえた。
複数の気配が湧いた。会話を交わしているように思える。
声のする方へ目をやると、すっと気配は消えて何も聞こえなくなる。
しかし今度は別の場所からまたボソボソと聞こえてくる。
段々と薄気味悪くなり、後ろ髪を引かれながらもそこを後にした。
「走りながらつらつら考えたんだけど。
あそこ、あれだけ見事な桜だもの、誰も見ないのも勿体ないよなぁ。
人か人外か知らないけど、やっぱり同じこと考えて見に来たんだろうなぁ」
彼はそう一人で納得していた。
『お客さん』
807 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2011/04/11(月) 20:23:17.28 ID:+fK9W2me0
杣人の話。
彼はよく山奥の炭焼き場に一人滞在して、炭焼きをしているという。
「大変ですね、一人で山に籠もっているのは寂しいでしょう」
私がそう言うと、彼は笑った。
「いや、時々はお客さんもあるから、そうは寂しくもない。
まぁ訛りが酷くて、意思疎通するのが大変だけどな。
酒がかなり好きなようで、一緒に飲むと結構楽しいぞ」
そう言うと、指先ほどの大きさをした物を懐中から取り出した。
薄い乳白色で、虹色に鈍く光っている。
「綺麗ですね、それって一体何です?」
「彼女の身体の一部だよ。この前くれたんだ」
「彼女? ははぁ、付け爪か何かですか」
「いや、鱗」
思わず、マジマジと顔を見てしまう。
彼はニヤニヤ笑うと「嘘だよ」と続け、あっという間にそれを仕舞った。
詳しく見せてくれと頼んだが、丁寧に断られてしまった。
果たして担がれたのかどうか、それ以上私も殊更に確認はしなかった。
今でも彼は炭焼きを続けている。
そして山に入る時は、酒を必ず多目に携えていくそうだ。
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