∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part52∧∧
『水瓶』
162 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/12/04(土) 22:06:16 ID:1t3Sd4RO0
友人の話。
彼の家は山中にあるのだが、そのすぐ横を、十年程前に高速道路が開通したという。
他方面へ繋がるインターチェンジが近いとかで、交通量は結構多い。
見通しは良いのに、何故か交通事故が多発しているそうだ。
ある晩、そろそろ寝ようかと支度していると、土間の方で気配がした。
様子を見に行くと、見たこともない女性が一人、水瓶から手掬いで水を飲んでいた。
「誰だ?」そう問い掛けてみても返事が無い。
水を飲み終えると、女性はスッと開いたままの戸口から出て行った。
やけに生気のない表情が気になってしまい、後を追いかける。
間髪入れず外に飛び出たが、戸口の外には誰の姿も見えなかった。
何処へ隠れたかと訝しんでいると、救急車のサイレンが聞こえてきた。
下で事故があったらしい。
尚も女性のことが気になっていると、屋敷奥から父が出て来て「どうした?」と聞いてきた。
事情を説明すると、こんなことを言う。
「その女性は多分、今の事故で死んだばかりの人だろう。
この下の事故で死んだ者は、何故かここの水瓶の水を飲みに来るみたいなんだ。
最期の一杯って奴かもしれんな」
父は数年前に、あることから事故と水瓶の関連に気が付いてしまったらしい。
「だから今じゃ使ってないこの水瓶も、水は切らさないよう注意してる」
・・・まぁ確かに一番近い民家だけどなぁ。
以来彼も、水瓶の水が減っていると、継ぎ足すようになったのだという。
『雲水』
163 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/12/04(土) 22:08:45 ID:1t3Sd4RO0
昔馴染みの話。
まだ小さな頃、故郷の山にある畦道を歩いていると、小さな祠があった。
背の高い誰かがその前に立って祈りを捧げている。
黒い着物で編み笠を目深に被っていた。雲水のようだ。
足を止めて見ていると、やがて祈り終わったのかこちらに向きを変え歩き始めた。
「こんにちは」軽く頭を下げて挨拶すると、渋い声で「こんにちは」と返答があった。
会釈した際、編み笠の下の顔が見える。
普通の鼻口のすぐ上、額の真ん中に大きな目が一つだけ瞬いていた。
ビックリしている彼女を残し、平然とした様子で雲水は山を上っていったという。
『鍋頭』
165 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2010/12/04(土) 22:12:23 ID:1t3Sd4RO0
知り合いの話。
彼の祖父が猟師をしていた頃、奇妙な動物が出ていたのだそうだ。
繁みの中で動く影を首尾よく撃ってみると、カンと硬い音がする。
確かに当たった筈なのに、ザッと走り去る音が聞こえ、繁みには何も残っていない。
ただ潰れた鉛の玉が、地面にポツリと落ちているだけ。
そういうことが何度かあった後、遂にその生き物の姿を拝むことに成功した。
薄い笹藪から出て来た物、そいつはヨタヨタと二本足で立つ、鼬のような動物だった。
異様なのはその頭部だった。黒い鉄鍋を被っていたのだ。
そいつはしばらく明後日の方を見つめるように立ち竦んでから、パッと四つ足になり山奥へ奔り消えた。鍋を被ったままで。
「先達の猟師に聞いたところ、どうやらアレはナベカブリというものらしい。
“鍋頭”と書いてそう読むんだと。
名前と姿が伝えられてるってことは、昔から出没してたってことなんだろうな」
祖父さんはそう言ってから「化かされたような気分だったよ」とボヤいていた。
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