∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part48∧∧
『氷』
846 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/02/20(土) 19:20:32 ID:QAwiEXUB0
友人の話。
真冬の朝方、ダム湖を眺めようと散歩に出掛けた。
そこは毎年湖面が氷結するそうで、その時も見事に凍っていたそうだ。
硬くなった水面に、雪がうっすら積もっている。
岸沿いの道を半ばまで歩いた所で、子供の足跡が湖の中央に続いていた。
ボンヤリと指の形が見て取れるのは、まさか裸足で歩いたのだろうか。
氷は薄く、子供とはいえ、とても支えられるほどの強度はない。
それなのに足跡は向こうの岸まで、湖を綺麗に一直線で横断していた。
いや待て。足跡の途中、湖の真ん中辺りに黒くて丸い箇所がある。
穴だ。丁度、子供が嵌まる程度の大きさの。
あそこで氷を踏み抜いて水に落ちた・・・。
で、這い上がって何事もなく渡り続けた、と。
ここ歩いたの、間違いなく普通の子じゃないだろうなぁ。
見なかったことにしてダムを後にしたという。
『月』
847 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/02/20(土) 19:21:37 ID:QAwiEXUB0
知り合いの話。
山奥の集落に停泊していたある夜。
尿意で目が覚めた彼は、屋外の厠に行って用を済ませた。
庭に置いてある手水鉢で手を洗おうと、中を覗き込んだ時。
水面に白い大きな円盤が映っていた。満月だ。
あまりの美しさに、思わず手を伸ばしたという。
次の瞬間、水の中から細い物が二本伸び出してきて、彼の腕を掴んだ。
幼子の細腕、そう見えたと彼は言う。
慌てて振り払うと、腕は直ぐさま鉢へ戻って消えた。
水面の月も乱れて消えた。
天を仰ぐと一面の星空、月など何処にもない。
――あぁ、そう言えば今日は新月だったな。
ようやっとそのことを思い出し、手水鉢を無視して母屋まで戻ることにした。
集落に滞在中、腕に掴まれたのはその一回きりだったそうだ。
月で人を釣ろうとするなんて、風流な物の怪もあったものだ。
そう彼は笑って言った。
『骸』
848 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2010/02/20(土) 19:22:19 ID:QAwiEXUB0
知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
「山に入っとった仲間が、青い顔して早々に帰ってきた日があった。
そいつが利用してる狩り場へ行こうとしたら、仰山の骸が落ちとったちゅうての。
ほとんどが雉だったそうじゃが、どうしたことかと寄って調べてみたところ――」
「倒れとるどの鳥にも、目玉が無かったんだと」
「“こりゃ十二様(山の神)が大荒れしてらっしゃる!”って思ったんだと。
恐ろしくなって一目散に逃げ帰ったそうじゃ。
本当かってんで、何人かで連れ立って、そこンとこの山道に行ってみた。
もう何も落ちてはいなんだが、えらく腐臭がしておった。
嫌な前触れだのう、そんなこと話しながら直ぐに山ァ下りたわ」
「その秋は、本ッ当に何も獲物が獲れんかった。
まぁ皆予想はしとったんで、出稼ぎ入れたり内職入れたりしとったけどよ。
十二様が怒っちまうと、鉄砲撃ちは何も出来ねえナって実感したわい」
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