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投稿者「ほしな ◆YZpuwgGc」 2019/02/12
私の姉は、首吊り紐に付きまとわれている。
いつか、首を吊りそうな気がしてならない。
今も続いている話だ。
私の姉は、子供のころに主不在の首吊り紐を見つけて以来、ずっと首吊り紐に付きまとわれている。
最初にそれを見つけたのは、姉が小学校五年生の時だった。
学校にあった、懸垂用の背の高い鉄棒に、ロープが結んであったのだ。
それは厳重に鉄棒に結びつけられていて、だらんと垂れた先が、人の頭が通りそうな大きさのわっかになっていた。
誰の目にも、首吊り用の紐に見えた。
気味悪がった姉は先生を呼び、首吊り紐は先生によって撤去された。学校は悪質なイタズラとして、全校集会で注意を促した。
二度目に姉が首吊り紐と出会ったのは、半年後に家族旅行で行った石川県だった。
間違えて入った道に立っていた電信柱。その足場ボルトから、首吊り紐が下がっていた。これは私たち家族も見た。縁起でもない、と両親が話していたのをぼんやり覚えている。
三度目は、それからさらに一年ほどあと。姉の友達の家の近くにあった、公園のブランコだった。ブランコとブランコの間に、しれっと混じって首吊り紐が揺れていた。
それからも、姉の行く先ではそんなことが続いた。
首吊り紐はなんの前触れもなく、規則性もなく、姉の前に現れた。だいたい、年に1回か2回。多いときは、3回。それ以上は出たことがない。
特に実害といえるほどの害はないのだが、ものがものなので気味が悪い。とにかく見つけると気分が悪いが、回避のしようもない。
それに、姉曰くただ現れるだけではないらしい。
「いつもね、私が一番に見つけるの。それでね、見つけた瞬間、紐がぴんと張って、ぶらんぶらんって揺れるんだよ。あれがさ、今まさに誰かが首つったみたいで、嫌なの」
もちろん、そこには首吊り紐が下がっているだけで、誰もいない。
にも関わらず、首吊り紐はそんな動きをしてみせるという。
そして揺れが収まると、ぴんと張っていた紐はふっと緩む。
それがまるで、「次のかた、どうぞ」と言われているような気がしてくるのだそうな。
「高さが、また嫌な高さなんだ。いつも、私の頭よりちょっと上にわっかが来るんだよ。……私の身長に合わせたみたいに」
姉は現在、三十代半ばである。首吊り紐との付き合いも、二十年を越えている。
これだけ長いこと続けば、いい加減慣れた。やっぱり気分は悪いけど、前ほど驚かなくなったよ、と姉は言う。
だが私は、数年前に姉がぽろりと溢した言葉を、今も覚えている。
「もしも、どうしようもないほど嫌なことや辛いことがあった日に、あの紐が目の前に現れたら、そのまま首を吊ってしまいそうな気がする」
姉は、昨年結婚した。子供が欲しいとのことで、妊活真っ最中である。
私も姉の子供には会いたい。
しかしマタニティブルーというものが頭をよぎって、不安でもある。
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