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投稿者「ほしな ◆YZpuwgGc」 2019/02/08
私のクラスメイトには、座敷わらしがいた。
誰にも見えなかったけど、いたのだ。
小学校四年生の頃だ。
私の通っていた学校は、田舎のこぢんまりとした学校だった。私の学年は全員で62人。クラスは2つ。私は2組だった。
三年生から四年生に上がるとき、クラス替えがあった。といっても、たかだか62人。全員顔見知りで、半分くらいは同じ顔ぶれだった。
おかしなことが起き始めたのは、夏休みが開けたころだったと思う。
そのころから、私のクラスではたびたび「ひとつ余る」ことが多くなった。
たとえば、席替えのくじ引き。全員がひき終わったあと、なぜかひとつ余る。調べてみると、なぜか32人の計算でくじか作られていた。
係を決めるときも、なぜか32人の計算で係が割り振られていたりした。最後の最後に人数が合わなくなって、ようやく間違いに気づいた。
給食の時、デザートなど数の決まったものが、なぜかひとつ余る。食器が余ったこともあった。つまり、私たちクラスメイトだけでなく、給食室の調理師さんたちまで間違えていた。
一番多かったのは、プリントだ。
算数のプリントが、漢字練習のプリントが、必ず一枚余った。親に渡すようなプリントも余った。どういうわけか、先生たちは実際に配るそのときまで、間違いに気づかない。
そういうことが、よくあった。
ある時、クラスの男子のひとりが「きっと座敷わらしがいるんだ」と言い出した。
ちょうどその頃、世はオカルトブーム全盛期だった。きっと彼も、それに影響されて言い出したのだと思う。おばけでも花子さんでもなく座敷わらしだった理由は、よくわからない。
ただ、なぜか私たちは、彼のその言葉に納得してしまった。
そうか、このクラスには座敷わらしがいるのか、と。
なぜそうもあっさり受け入れたのかはわからない。
別の男子が、クラス名簿に勝手に名前を書き加えた。
姓は座敷、名はわらし。
こうしてクラスメイトの座敷さんが誕生した。
誰かが、空き教室から椅子と机を持ってきた。
雑多な物入れになっていたロッカーが、座敷さんのロッカーになった。
余ったものは座敷さんのものというのが、クラスの暗黙の了解になった。
給食が余ったら座敷さんの机に置く。余ったプリントも座敷さんの机にしまう。係を決めるときは座敷さんにも割り振った。席替えだって、座敷さんの机を動かした。
なぜか、クラスメイトの全員が存在しない座敷さんの存在を受け入れて、いるものとして扱っていた。
だれもおかしいと言わなかったし、だれも座敷さんの存在を忘れることはなかった。
先生たちはかなり戸惑っていた。けれど、田舎の学校だ。先生たちは、よく言えばおおらか、悪く言えば適当だった。だから一度として、やめなさいといさめられたことはなかった。
私たちは結局、卒業まで座敷さんと過ごした。
卒業するまで、ひとつ余る現象はなくならなかった。
卒業アルバムを開くと、クラス全員で撮った写真が最初に出てくる。
その写真は、当然31人で撮ったものなのだけど、なぜか一番後ろの列の真ん中が、ひとり分空いている。
そこは座敷さんのために、クラスメイトが自然とあけたスペースだ。
その小さな隙間を見るたびに、思い出す。
見えないけど、確かに存在したクラスメイトのことを。
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