怖い話&不思議な話の投稿掲示板
投稿者「実葛 ◆9uasZO6A」 2019/01/29
とある友人から聞いた話。
彼は、トラックの長距離運転手をしている。その仲間内で、有名な自動販売機があるという。
人家もまばらな田舎の道には、休憩用に路側帯を広く取っている箇所が所々にある。そこには大抵自動販売機が設置されており、中にはそれが五、六台並んでいることも少なくない。
そんな、とある田舎町のとある休憩所には、ハズレの自動販売機があるという。
五台並んだ自動販売機の、右から二番目がそうだという。見た目は何の変哲も無い自動販売機だ。何がハズレなのかといえば、選んだ商品がその通りに出てこないことが、度々あるのだという。
暑い時期にはホット飲料が、寒くなればコールド飲料が出る。喉が渇いているのにとろりとしたスープが出る。コーヒーが飲めない者にはコーヒーが、炭酸が飲めない者にはコーラが、甘い物が苦手な者にはおしるこが出てくるという。これだけでも十分嫌がらせなのだが、当たり付きでもないくせに、いらない飲み物が一気に数本ゴロゴロ出てくることもあるそうだ。
そして、ハズレの飲み物が出た後だけ必ず、自動販売機が喋るという。妙に明るく甲高い、イントネーションが狂った機械独特の喋り方で、
「ざんねん、ハッズレ〜〜‼︎ まったきってね〜〜〜‼︎」
そして、キャハハハッと、そこだけ生身の人間のように笑うらしい。
その自動販売機のことを知っていても知らなくても、初めてそれに遭遇した者は、その声を聞いて必ず固まってしまうという。
「そんな傍迷惑な自販機、さっさと連絡して撤去してもらえばいいじゃないか。ただの機械の故障じゃないのか? 連絡先も書いてないような、古いやつなのか?」
私は呆れてそう言った。話してくれた友人は、無精髭を撫でながら返した。
「大手メーカーので、ちゃんと連絡先も書いてるよ。中身の飲み物も普通だしな。実際連絡した奴もいたらしい」
「それなのに、変わらないのか?」
「モノが変わったかどうかは知らんが、相変わらずハズレは変わらんよ」
「じゃあ、使わなきゃいいじゃないか。他のは普通なんだろ?」
そこで友人はニヤリと笑った。
「実はな、あの自販機でハズレに当たると、ツキが回ってくるんだよ。競馬やパチンコで大勝ちしたり、宝くじで億を当てた奴もいたらしい。だからみんな、あそこで買いたがるんだ。最近は、アタリの自動販売機なんて呼ぶ奴もいるぞ」
「お前もあるのか」
「あるぞ。その直後、パチンコですごいことになった。でも、一回だけなんだよなぁ。狙っていくと、ふつうの自販機なんだよ。中には、あれに一万円分つぎ込んでも、目当てのコーヒーしか出てこなかった奴もいる。なんでかなぁ」
なんでも何も、それが普通で当たり前だ。
私がそう言うと、友人は悔しそうに髭を撫でた。
次の記事:
『釜トンネル』『姨捨』『檜の間伐』
前の記事:
『合宿所の中庭』『あの世はあるのか』