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投稿者「実葛 ◆9uasZO6A」 2019/01/15
とある友人に聞いた話。
彼は大学に入学してから念願の一人暮らしを始めたが、張り切っていたのは最初の頃だけで、すぐにだらけた生活を送るようになった。
昼過ぎに起きて夕方までダラダラと過ごし、アルバイトに出かける。深夜まで働き、バイト仲間と少し遊んで明け方に帰宅する。そしてまた昼過ぎに起きるーー。本分であるはずの勉学が入る余地のない生活だったという。
当然、一回生にして留年が決定した。
実家にも留年通知は届いているはずだ。さて、なんと親に言い訳しようか、いっそのこと退学して働いてもいいかもしれない、など親不孝に考えながら、いつものように明け方帰宅した時だ。
普段なら素通りのはずのアパートの集合ポストに、ふと目が止まった。自分の部屋番号のポストから、何やら白い紙がはみ出ている。抜き出すと、それは一通の封書だった。
差出人の名前はなかったが、彼は宛先の筆跡に目を留めた。その達筆な筆文字は、亡くなった彼の祖父のものとよく似ていたのだ。
まさか、じいちゃんからじゃないよな。冗談半分でそう思いながら、部屋に帰って封を開けてみた。丁寧に三つ折りされた便箋を開くと、
「おまえは、なんばしよっとかぁ!!」
聞き覚えのある怒声が響き渡り、彼は腰を抜かした。
それは確かに、亡くなったはずの祖父の声、叱り方だった。
怒声は一度きりで、その後は何も起こらなかった。恐る恐る便箋を見ると、そこには何も書かれていなかったという。
彼はその後、両親に頭を下げて学業を続けさせてもらった。心を入れ替えて励み、学部を首席で卒業したという。
「今でも、気が緩みそうになるときは、あの手紙を開くんだ。祖父はちゃんと叱ってくれるよ。ただ最近、力が弱くなったのかなぁ、その勢いも声も小さくなってね。開いたら音楽が鳴るクリスマスカード、あるだろ? あれが古くなった感じでね、笑えるよ」
笑える、と言いながらも、彼は少し寂しそうだった。
私は、大人になっても叱ってくれる存在があることを、羨ましく思ったのだった。
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