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投稿者「実葛 ◆9uasZO6A」 2019/01/03
とある古い炭鉱町で聞いた話。
以前は炭鉱で栄えたというその町には、あちこちにボタ山と呼ばれる人口の小山があった。
ボタ山とは、採掘の際に出た捨石(ボタ)の集積所のことだそうだ。今はもう緑に覆われているものがほとんどで、あれがそうだと教えてもらわなければ、素人目には全く普通の丘と区別がつかない。
このボタ山には、昔よく狐火が立ったという。これは、ボタに含まれるリンが自然発火してできるものだと当時からいわれており、子供が怖がる程度のものだったという。
しかしこのあたりに狐が多くいたのは事実で、狐火を科学的に説明する反面で、「死人を狐が盗みにくる」という迷信もあった。
こんな話が伝わっている。
ある通夜の晩、弔問客が途切れた夜半に、一人の男が訪ねてきた。家人はその人物に覚えがなかったが、目に涙を浮かべ是非線香をあげさせてくれと言われれば、断る理由はない。男を家に上げ、遺体の前に案内した。男は、随分と長い間手を合わせていた。そして不思議なことに、その場にいたものは全員男に釘付けになっていた。目を逸らせなかったのだそうだ。
ようやく拝み終わると、男は家人に一礼し、拝んでいた時とは真逆の他人行儀で、名も告げずそそくさと帰ってしまった。男を見送った家人が首を傾げながら居間に戻ると、忽然と遺体が消えていたのだという。
この男は狐で、人間に化けて遺体を盗みにきたのだといわれている。化けた狐が線香をあげて家人の目を集めている隙に、仲間の狐がこっそり遺体を盗み出すのだという。
そういうことがあるので、通夜の晩でも、夜中の弔問客には対応してはならない、というのが、その地域のルールだった。遅くとも夜の九時を過ぎれば玄関を閉ざし、親兄弟が訪ねてきても開けてはいけないのだそうだ。
人が死んだ夜は、ボタ山で狐火がいつもより多く燃え、いつもは真っ黒な山が、青や赤や黄色のとりどりの光に彩られていたという。
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