∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧(実質43)
『ヤツシ』
822 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:20:54 ID:IUaDZNkJ0
友人の話。
彼の実家があった山村には、おかしな掟があった。
「○○谷地では言葉を喋ってはならない」というものだ。
なぜならその谷地には、ヤツシが隠れ潜んでいるからだと。
ヤツシとは山奥に住む猿のような物の怪で、時折人里近くに下りてくるという。
ヤツシは人の会話を盗み聞くうちに、それを習得してしまう。
言葉を覚えてしまうと知恵がつき、やがて村人に取って代わろうと願うようになる。
そして山に入った者を食い殺し、その姿に化けて村に入り込む・・・
そう言われていたのだそうだ。
すり替わったヤツシは、自分が物の怪であったことすら忘れ、その人物に成り切る。
それが死んでから焼き場で焼かれた後、燃え残った大量の和毛が釜から出てきて初めて、
「あぁこの人はヤツシにすり替わっていたのだな」と気が付くのだと。
「もしかしたら俺、物の怪の血を引いていたりしてな」
友人はニヤリと笑ってそう言った。
『頬撫で』
823 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:22:11 ID:IUaDZNkJ0
知り合いの話。
彼の地元の山では、昔から「頬撫で」と呼ばれる化け物が出ていたという。
夜道を歩いていると、傍の繁みからヒヤッとした手が出てきて、頬を撫でていくのだと。
遭遇するのは大抵子供だったので、そこを通る際にはよく大人が一緒に付いていった。
ある年に町の若手が総出で、清掃作業を行うことになった。
なぜに突然清掃の運びになったのか、その説明は一切無かったという。
清掃対象は丁度、頬撫でが出ると言われた辺りだった。
半日の作業の結果、ごっそりとゴミが回収された。
不思議なことに、その殆どが軍手やゴム手袋といった類の物だった。
また回収されたそれらのゴミが、焼却される前に寺で供養されたのも腑に落ちなかった。
「でもね。あの掃除以来、頬撫でがトンと出なくなったんだわ。
あのゴミ手袋、何か関係あったのかなぁ」
現在そこはゴミ捨て禁止の札が立てられており、違反者は厳しく罰せられている。
『黒い小さな壺』
824 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:23:31 ID:IUaDZNkJ0
友人の話。
子供の頃、家族で渓流に遊びに行った。
鮎を釣る算段をする親から離れて、妹と二人で川に入って遊んでいたという。
「兄ちゃーん」妹が彼を呼ぶと、目の前の水面を指差した。
どこから流れてきた物か、黒い小さな壺が漂っている。
興味を引かれて手を伸ばすと、壺の中から何かが滑り出るのが見えた。
酷く小さな、でもズルリと長い、黒い毛に覆われた獣の手。
伸ばした手に痛みが走った。引っ掻かれたと気が付き、パッと手を引っ込める。
傷口を押さえて後ずさる彼の耳に、フゥーッ!と唸るような声が聞こえた。
壺の口がこちらを向いて、緑に光る二つの点が覗いている。
立ち竦む彼を残し、壺はそのまま下流に流されていった。
後日、その川で漁をしている叔父にこの話をしてみた。
「ほう川壺に出会ったか。しかし運が良かったな。
あちらが腹減らしていたら、尻子玉抜かれてたかもしれん」
そう言うと、叔父は友人の父に向かいこう注意した。
「次からはもう少し下った所の原を使えや。あそこなら何も出ん」
・・・あの時の僕って、実は危なかったの!?
それからしばらくの間、彼は夢に出てくる小さな壺にうなされたそうだ。
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