∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧(実質43)
563 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/21(木) 20:43:25 ID:MZ+CeexK0
友人の話。
彼の実家は、山を幾つも持っている旧い名家だ。
その山の一つに御堂があり、大きな黒い牛を描いた木板が保管されている。
画家の手による作品ではなく、何代も前の主が絵から何まで自ら拵えた物だとか。
伝わるところによると、その主の代の頃、凶賊が屋敷に押し入ったのだという。
使用人が次々と斬り倒され、最早これまでと覚悟を決めたその時。
何処からともなく黒い颶風が飛び込んできて、あっという間に賊どもを打ち倒した。
風の中心にいたのは、信じられないほど大きく黒い牛だった。
真黒い身体の中で目だけが赤く輝いている。
主は震えながらも尋ねてみた。
「もしやあなたは、この家の守り神様で?」
その家は牛馬の取引で財を成していたそうで、そのことから黒牛を見て神様かと連想したものであろうか。
564 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/21(木) 20:44:07 ID:MZ+CeexK0
驚くことに牛は、片言ではあるが言葉を返してきた。
「イナ。ワレ、コノイエニタタルモノナリ」
呆気にとられ、ではなぜ祟る相手を助けたのか問うてみた。
牛の話は難解でよく理解出来なかったらしいが、詰まるところ、
“家筋を祟る代わりに、自分がもたらしたものでない凶事は退ける”
というのが牛の言い分であったらしい。
賊達を散々脚で踏み付けまくってから、黒い獣は夜の山に姿を消した―
言い伝えはここで終わっている。
その後なぜか主はこの牛を絵に描き表し、御堂を造って祀ったのだという。
「いやまぁ、御先祖様の気持ちは何となくわかるんだけどね。
意に反して祀られちゃったりして、牛さんも不本意かもしれんな」
ちなみに彼の一族に、祟られているという実感を持つ者は一人もいないそうだ。
「ま、例え不幸があったとしても、それが牛さんの祟りかどうかわからないし」
友人はそう言って軽く笑った。
次の記事:
『鯉の糸』
前の記事:
『おばあちゃんのお葬式』『怪現象のようなものに悩まされていた』