∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧
『無人の湯治場』
399 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/03/03(火) 23:48:40 ID:8cyyUxQK0
同級生の話。
岩だらけの連山を一人で縦走していた時のことだ。
だだっ広い岩場の真ん中で、籠を背負った小母さんとすれ違った。
こんな場所に何で農作業姿の小母ちゃんがいるんだ? 大根とか背負ってるし。
思わず呼び止め、どちらから来られたんですかと問い掛ける。
「この近くだよぅ」そう言って愉快そうに笑う。皺だらけの顔に邪気は見られない。
近くねぇ・・・首を傾げていると、小母さんは更に続けて言う。
「ここから少し行ったところに無人の湯治場があるけどサ、利用しちゃダメだよぅ。
猫になっちゃうからサァ」
何ですと?
「そこに浸かると、びっしりと猫の毛が生えてきて、やがて本当に猫になっちゃう。
身体の大きさは人のまんまっていうから、まぁ化け猫だね。
猫湯ってちゃんと看板が出てるから、間違っても入っちゃダメだよぅ。
こんな所で猫なんかになっちまったら、飢えて乾いて日干しだよぅ」
呆然とする彼を残し、小母さんはケラケラ笑いながら去って行った。
気になってしまい、注意して探してみたのだが、猫湯などという湯治場などどこにも見つからなかったという。
「からかわれたかな? でも、あの小母ちゃん、本当どっから来たんだろ」
「その小母ちゃん自身が、実は化け猫だったりして。お前、化かされたんじゃない?」
そう口にした私を、彼は引き攣ったような目で睨んだ。
『猫、好きか?』
400 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/03/03(火) 23:50:38 ID:8cyyUxQK0
友人の話。
地元の山道を一人歩いていたところ、前方の繁みの中から不意に声がかけられた。
猫、好きか?
反射的に「好きだけど」と返した目の前に、ぼとんと何か降ってきた。
千切り取られた猫の首だった。
一瞬硬直してから、叫び声を上げて逃げ出した。
人家のある辺りでやっと足を止めたが、次の瞬間、背後から渋い声が問うてくる。
好きだって言ったろ?
怖ろしさに頭の中が真っ白くなり、道にぺたんと座り込んで泣きじゃくっていると、村の駐在さんが見つけてくれた。
事情を説明し、先ほどの山道まで一緒に行ってもらう。
地面に濡れた黒い染みはあったが、猫の首はどこにも見当たらなかったという。
『川面をぼんやり眺めていた』
401 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/03/03(火) 23:51:50 ID:8cyyUxQK0
知り合いの話。
地元の山でキャンプをしていた時のこと。
夕食後に川面をぼんやり眺めていると、何かがヌッと水を割って現れた。
濃い茶色をした、大きな猫の頭。子供の頭と同じほどの大きさがあったという。
目と目が合い、しばし見つめ合った後、猫はくるりと身体を回し水中に没した。
綺麗なターンを描いたその身体は、間違いなく人型だった。
「猫の顔した猿が泳いでた!」
慌てて皆の元へ逃げ帰りそう大声で騒ぐと、一番の年長者がこんなことを言う。
「この辺りには、河猫と呼ばれる化け物が昔から棲んでるんだってさ。
一人で川の側にいると、引きずり込まれるって話だ」
「河童みたいに尻子玉でも取られるんですか?」
そう誰かが聞いた。
「いや、内臓だけ喰われて、骸は川下に流し遣られるんだってさ。
これから川には一人で近よらないようにしとこう」
その後は何も現れず、キャンプは恙なく終了したのだという。
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