∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧(実質42)
599 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/15(水) 19:40:58 ID:Gq7kdmYV0
知り合いの話。
彼の親戚に、イイナワ使いと呼ばれる人がいたという。
イイナワとは飯縄と書くそうで、人に使役される一種の使い魔なのだそうだ。
使役する者をイイナワ使いと呼んだというが、飯縄は人を病気にしたりもするので、大層忌み嫌われたらしい。
そのためナワ使いの家筋は、人も入らないような山奥へ追いやられ、人目を避けて隠れるように住んでいた。
「まぁそうは言っても、昔の話だからね、どこまで本当なのかわかりはしない。
今は一族も皆、里や町に出て暮らしてるしね。
イイナワなんて誰も使えやしない」
「でもね、その小父さんは本物だった。
下界から持ち込まれた、失せ物・探し人・占いといった問題事を、すべてナワを使って解決していたっていうんだ。
そればかりか、どうやら人を病気にしたり、不幸にしたりすることまでやってた みたいでね、親族からも恐れられてた」
「なぜか僕はその人に可愛がられていてね、よく話をして貰ったよ。
ある時、聞いてみたんだ。
イイナワってどんな動物なのかって。
何で人の言うことを聞いてくれるのかって」
600 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/15(水) 19:43:18 ID:Gq7kdmYV0
小父さんは真顔でこう答えたという。
『伝えられてるイイナワっていうのがどんなモノなのか、私は知らないんだ。
呼び名からすると飯綱権現のことだと思うけどね。
つまり狐だ。
でも、私が使っているのはそういうモノではないから』
そう言って、腰に下げた瓢箪を取り出し、目の前で振ってみた。
『この中にね、私の弟が入っているんだよ』
何とも言えない顔で、小父さんはそう言った。
『私より五つばかり年下だけど、残念なことに死産だったんだ。
その子がなぜか、この瓢箪の中に入り込んでしまってね。
家族は誰も信じてくれなかったが、弟の声が聞こえるのも、弟と話が出来るのも私だけだったから、仕方のないことだね。
何と言ってもこの世に二人だけの兄弟だからね、意思の疎通も簡単なんだよ。
タマ(魂)だけの存在だから、お狐様みたいなことが可能なんだろう」
住んでいた山村の廃棄が決まり、一族が山を下りても、小父さんは一人山に残ったのだという。
「小父さんは今でも、瓢箪と会話しながら暮らしているんじゃないかと思うよ」
そう言った彼の顔は、どこか寂しそうに、しかし安堵しているようにも見えた。
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