∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part41∧∧(実質42)
『毒虫』
237 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/31(火) 18:48:24 ID:YlLkh0xa0
知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
棚田の多い山奥の邑で、ある朝騒動が持ち上がった。
邑の外から来たらしい様子の男を、何人かの邑人が取り囲んで責め立てている。
彼が騒ぎを聞きつけた時には、既にかなりの人集りができていた。
何事かと見ていると、男はどうやら手中の何かを守ろうとしているようだ。
邑人がそれを奪おうとすると、大声を出して威嚇している。
いきなり、男は殴り倒された。
馬乗りになった邑人たちが小袋を取り上げ、中を確認して怒声を上げた。
サッと取り囲んだ空気が変わるのがわかる。
集まった人々が皆、ひどく腹を立てている印象を受けた。
今にも私刑が始まりそうな雰囲気に彼が困惑していると、顔見知りが忠告してくれた。
『関わるな。彼奴ら、殺されても仕方のないことをやろうとしてたんだ。
毒虫をこの邑に持ち込んで、放そうとしていやがった』
「毒虫というのが、あの手の中にあった袋の中身ですか。
一体何なのですか?」
238 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/31(火) 18:49:24 ID:YlLkh0xa0
その彼の質問に、邑人はこう答えた。
『虫を殺す薬草群に、ワザと番の虫を入れてから、乾燥させるんだ。
大抵の場合、虫は普通に死んでしまうんだが、希に最後まで生き残る番がいる。
この二匹を取り出して、数手間加えてから野に放つと、一年後にその地は大凶作になる。
どんな薬でも死なない害虫が大繁殖して、文字通り何でも食い尽くすんだ。
この番の虫が毒虫。邑によっちゃ飢饉虫とも呼ぶってよ』
「殺虫剤が効かなくなった蠅の話を聞いたことがあります。
ある殺虫剤に抵抗力のある成虫同士が子孫を残すと、その血統はもうその殺虫剤では死なないという話でした。
毒虫とはそれと同じ原理で創られた虫なのかもしれませんね」
そう彼は解説してくれた。
しかし、わざと飢饉を起こしてどうしようというのか。
疑問に思ったので知り合いにそれを問うてみた。
『いやなに彼奴ら、その毒虫を殺すための術もちゃんと持ってやがるのさ。
飢饉の恐怖を創り出して、高い金を取ってそれを追い払う。
要するに奴ら、飢饉をコントロールして金儲けをしてるんだ』
毒虫の入った小袋は踏み潰され、男はボコボコに殴られて何処かへ連れて行かれた。
流石に後をつけるような真似はできなかったという。
『人喰い』
239 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/31(火) 18:51:34 ID:YlLkh0xa0
知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
「とある山奥の里で耳にした噂ですけどね。
その付近には、一風変わった技術を持った一族がいたのだそうです。
どんな技術ですかって?
人を襲って喰らう動物、いわゆる“人喰い”を育てる技術です。」
「似たような話は他所でも聞いたことがありますが、そこのはまた強烈でした。
本来は人を捕食しない生き物ばかりを、人喰いに仕立て上げていたというのです。
山羊とか馬とか、草食の動物ばかりが選ばれていたとか。
仮にそれらが人を食べたとしても、まず消化は出来ないでしょうから、
実際には人を噛み殺すだけ、というレベルの“人喰い”でしょうけど。
そのようなモノを作る目的は、まぁ詮索しないのが身の為でしょうね」
「伝わる話では、非常に珍しい生薬を用いていたと言われます。
でもまぁ聞く限り、珍しいといっても手に入らないような薬ではないのですが。
その薬が取引されたという話を聞く度に、一族の者はまだどこかにいるのでは・・・そんなことをふと思いましたよ」
流石中国、色々と不思議な話があるものだなぁ。
呆れ且つ感心した私だった。
『黒犬』
240 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/03/31(火) 18:53:00 ID:YlLkh0xa0
知り合いの話。
彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。
ある山奥へ踏み込んだ時に、地元の農民に注意された。
『この辺りの山には入らん方が良いよ。犬に襲われるから』
野犬かと思ったが、よく聞いてみるとどうやら違うモノらしい。
『黒犬って名前でね、地の中を泳いで移動するんだ。
別の村じゃ土中犬とも呼ばれてる。
森の中で、いきなり足元が盛り上がり、犬の頭が飛び出て噛み付いてくるんだ。
群れで襲ってくるから、襲われた奴は地面の下に引き摺り込まれちまう。
悲鳴を聞いて助けに行ってみれば、もうそこには凹みが残されているだけ。
やっとこさ掘り起こすと、散々に食い荒らされた骸が出て来るんだ。
相手が土の中じゃ、簡単に追い払うことも出来ないしね』
「それは本当に犬なのですか?」と問えば、こんな答えが返ってきた。
『犬に似た何かの化け物・・・ってことだ。
でっかくなった古い木に、黒い獣の精が湧くことがあるらしくて、それが育つとこの黒犬になるんだそうだ。
元は木のくせに、何で肉を喰らうのかね。
年寄りが言うには、大昔は都からわざわざ狩りに来ていたらしい。
その肉を鍋で煮込むと、これが何ともいえない程に美味なんだってさ』
本当に何でも食べるんだなぁと、聞いてから苦笑いしたのだそうだ。
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