怖い話&不思議な話の投稿掲示板
投稿者「NO NAME ◆HwsISSrI」 2018/07/29
こんばんは。いつも楽しく恐ろしくブログを読んでいます。
最近、石にまつわる不思議な話を読み、ふと、石と聞いて思い当たるヤツがいたのでその話を投稿させてください。オチはないです。
友達のWの話です。
Wの実家のある地区は東・北・西の三方を山に囲まれています。
そしてその地区には『役』という風習?があります。毎年8月(日付は忘れました)、各家の代表が公会堂に集まりくじを引き、たった一つの当たりを引いた家がその年の役を果たすというものです。(役を果たした家は次の年のくじを免除されるそうです。)
「役目を果たす」ではなく「役を果たす」だそうです。…僕はこの日本語に違和感を覚えました。どうなんでしょう…?
Wが中学一年生の夏。
彼の家に役が回ってきました。くじを引いてきたWのおじいちゃんは動揺した様子でした。「不正はない。しばらくだったからな、驚いている。」といった内容を話していたそうです。
風習だのなんだのに無関心なW少年はそこで初めて役の内容を知りました。そこそこ家のある地区なので、もしかしたら、くじが当たらず内容を知らないまま地元を離れる なんてこともあったのかもしれません。
『役』の内容は、『集落の西の山から東の山へ石を運ぶこと』。Wは腰を痛めているおじいちゃんの代わりにお父さんについて役を果たすことになりました。
8月末、役を果たす日の蒸し暑い夕方。
Wとお父さんは家を出発しました。
長屋(物置だそうです)からネコグルマと軍手、夏は日が長いですが懐中電灯を持って西の山へ。
前日、前々日と夕立が続いていたので、ミミズがたくさん地面の上に出て死んでいるのが不快だったそうです。
西の山のうち、誰の畑があるとも聞かない場所へ進みました。Wは両側から伸びる長い草で腕を切りました。「長袖を羽織れと言ったのに。」とお父さんに軽くなじられながら、その後も他愛ない親子の会話をしながら、山の奥へと続くゆるやかな坂を登ります。
Wがおでこの生え際を蚊に食われた頃、廃神社のような社のあるところに着きました。崩れ落ち苔むした石材が鳥居だったのかもしれませんが、狛犬も賽銭箱も見えないので神社ではないかもしれません。Wがこの場所について尋ねると、言葉を強めて「お前はまだ知らなくていい。」と言い、お父さんは社?の裏手に向かってしまいました。ここに来て急に不機嫌な言い方をされ、Wも機嫌が悪くなりました。
お父さんの後を追うと、そこは崖下で、石垣のようでした。その石垣は一部が崩れていて、人の頭サイズから、それはもうちょっとした岩と言っていいんじゃないかってサイズまで、大量の石がごろごろ転がっています。ただ、どの石も丸く表面がなんとなく滑らかだったそうです。
お父さんがそれをネコグルマに積んでいます。なんとなく無言のままWもそれを手伝います。
「拾う石って何か決まりがあるのかな」「東へ運ぶ石ってこれなんだよね」鈍いW少年の頭にもようやく疑問が増えてきました。お父さんにキツい口調で返事をされるのが恐ろしくて、その場ではなにも聞かなかったそうですが。
ネコグルマいっぱいに石を積み込み、それはバランスをとるのがやっとのほどの重量になりました。
日がほとんど落ちかけていました。
お父さんは「ライトつけて。」と言い、ネコグルマを押し 来た道を戻り始めました。Wは出来るだけネコグルマの横に立ち、石を支えながら前方をライトで照らしました。
集落に戻ってきました。家々の灯りの間を石を積んだネコグルマだけが進んで行きました。石を支える手にいつの間にか這っていた羽虫を払います。
「そういえば、今日は人に会わないな」
東の山に入った頃、Wはそう思いました。
東の山の中にある目的地へは西の山よりもすぐに着きました。それは直径15メートルほどの濁った池でした。ライトで照らすと一部がきれいな翠色だったそうです。
「いいか、ここから石を池に入れるんだ。危ないからあんまり近づくなよ。遠くに投げ入れるようにできるとなお良い。ライトは消せ、虫が集まるから。」
フクロウや狐の声がしていました。時刻は20時を回っていそうです。
Wはライトを消し、お父さんの真似をして池に石を投げ入れます。と言っても、池からは1.5メートルほど離れていて、池の淵ギリギリや浅瀬に投げ込むことしかできませんでした。
…ぼしゃん!…ぼしゃん!…どしゃ!…どす!
Wはだんだん腕が疲れてきて、ついには池に届かず石が地面に落ちてしまいます。拾いに行こうとしましたが、後ろからグッと腕を掴まれ「行くな!!」と怒鳴られました。そのまま振り向かされると、目を見開いたお父さんがいました。暗くて見えにくいはずなのに、お父さんの顔は真っ赤になっているようでした。W自身の心臓のドクドク音は、お父さんから聞こえてくるようでした。
「あとは…お父さんがやるから。あの石はあのままで…いい。」
気の弱いW少年は泣きそうでしたが「お父さんは余裕がないんだ」と、急に冷静になった頭でそう思い始めました。
残りの石を全て投げ入れたお父さんは「ライトつけて、帰ろう。」と言いました。そしてその日はそれ以上何も話しませんでした。家に着いたのは22時前で、思ったよりも時間が経っていたそうです。
「おじいちゃんも父さんも、多分俺にこの役のことを知ってほしくないんだと思う。というか、この風習を廃れさせて無くそうとしている。役を果たした次の日、父さんに『次が来てしまったら教える。これはあまり大きい声で言えないが、お前には来ないようにするからな。ごめんなぁ。』なんて言われたんだ。
俺って孝行息子だしさ。厄介ごとに首は突っ込まないし、突っ込みたくないんだよ。まあ、知らなくていいうちは知らないで置こうと思うんだよ。」
Wのヤツは考えるのをやめたんです。
お前、この年以外の「役を果たす日」はどう過ごしてたんだよ。
お前、わけのわからないモノの手伝いさせられたのに、親に言われたからそれ以上詮索しなかったなんて……素直なやつなんだろう。
お前、思春期とか反抗期とか若気の至りとかはどこ行った。
Wが飲み会のネタとして簡単に話したこの風習とやらに食いついた僕は何度も詳しく話せと問い詰めたのですが、話すたびに彼の夏の日の記憶の細かな部分が鮮明になっていっただけで未だフワフワしてるんです。
なんとなく風習がどんなものか想像できても、僕はもっと、こう、本当のところを知りたいのです。
最近Wに、今度帰省したらあの風習について詳しく聞いて来てくれよと頼みました。彼はうーんと唸ったあと「そういやあのとき、池から離れて石を投げ込んでたのってさ。父さん、ビビってたんだろうな」と言いました。…そうだね、僕もきっとそうだと思うよ。
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