∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part29∧∧
871 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/10/09(月) 03:46:12 ID:+ciWz2RF0
友人の話。
幼い頃、彼は実家の山村で迷子になってしまったという。
つい山奥へ踏み込んでしまい、気が付くと何処にいるのかわからなくなっていた。
何時間歩いただろうか。疲れ果てしゃがみ込んだ耳元に、声が届いた。
「おーい」と呼ぶ声だ。麓の方から響いてくる。
あっちに誰か居る!慌てて立ち上がり、声のする方へ叫び返しながら走り出した。
今思えば奇妙な声だったらしい。彼は声に向かって全力で走り寄っているのに、
声は一向に近くなる気配がなかった。彼と同じ速度で逃げているかのように。
と、唐突に開けた場所に出た。よく見知っていた裏山の神社だ。
安堵でへたり込み、息を吐いているうちに気が付く。
声はもう聞こえなくなっていた。
御礼を言おうと何度も呼びかけてあの声の主を探したが、夕暮れの里には烏の鳴き声が谺するだけだった。
彼は今も実家に帰ると、そこの御社へ参拝を欠かさないのだそうだ。
872 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/10/09(月) 03:47:28 ID:+ciWz2RF0
友人の話。
親戚の叔父さんと二人で、山の下草刈りをしていた時のこと。
何処からともなく「おーい」と呼びかけられた。
思わず「はーい」と返事を返すや否や、彼はいきなり打っ倒れた。
腹の中がストンと空っぽになったような、異様な寒気に襲われたのだ。
猛烈にひもじい。力が入らない。体温がぐんぐん下がるのが自分でもわかる。
そのまま、意識がプツリと途切れた。
気が付くと、叔父さんが心配そうに見下ろしている。飢餓感は消えていた。
ホッとして半身を起こすと、口元に何かがへばり付いていた。
御飯粒だ。叔父さんが彼の口に弁当の残りを入れてくれたのだという。
「ダルさんの呼ぶ声に答えたな。連れてかれるところだったぞ、お前」
ダルというのは、この峠に出る餓鬼の名前だという。
山で飢え死にした者の無念が鬼となり、生きている者を呼ぶのだと。
うっかり死者の呼びかけに答えてしまうと、飢えて行き倒れることになる。
そこの地元では餓鬼憑き、もしくはダル憑きと呼んでいたそうだ。
「亡者の声か生者の声かなんて、区別付かないよなぁ普通」
そう言って彼はぼやいていた。
873 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/10/09(月) 03:48:54 ID:+ciWz2RF0
知り合いの話。
朝方に彼が里道を歩いていると、向こう側から顔見知りがこちらに進んできた。
ただ不思議なことに、それが誰だったのかどうしても思い出せない。
そいつが「おーい」と声を出したので、彼も「どうしたー?」と言葉を返す。
次の瞬間、辺りがいきなり真っ暗になった。
呆然と見上げると、大きな月が世界を照らしている。
彼は真夜中の暗い道の上、一人きりで突っ立っていた。
ひどく驚いたがどうしようもなく、そのまま家に帰ることにした。
帰宅した彼は、再び仰天することになる。
家の者が言うには、彼は五日前から行方不明になっており、
村中で手分けして捜索していた真っ最中だったからだ。
とりあえず無事に帰ってきたということで、村では一件落着したのだが、
家族はしばらく何か恐れているような眼で彼を見ていたという。
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