∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part28∧∧
『おかしな峠道』
681 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/20(日) 20:59:41 ID:CbyYU0Gd0
同僚の話。
彼は道路保全の仕事をしているのだが、受け持ち区間の中におかしな峠道があるそうだ。
山の中腹を走るその峠道では、ガードレールや道路標識の破損が異常に多い。
まるで車が突っ込んだかのように、金属の部分がクニャッと曲がっているのだと。
しかし表面などには傷らしい傷もなく、
また車が事故を起こすさないような場所に限って、設備は損壊しているという。
ある夏の日、そこの峠で、彼が歪んだガードレールの検分を行っていると。
不意に山の上方から耳慣れない、大きな音が聞こえてきた。
きょーーーんっ
言葉にするとそんな感じの音だったらしい。何かの声のようにも聞こえた。
ギョッとして山を見やったが、既に音は静まり、何も変わったことはない。
仕事に戻ろうと顔を戻し、再びギョッとする。
ほんの少しの間に、先程まで何も異常がなかった部分のガードが、大きな手で押し潰されたかのようにへたっていた。
実際にそんな瞬間に立ち会ったのは、後にも先にもその時だけらしいが。
「あそこには何か居る」
彼は困ったような顔で、話の終りにそう言った。
『満月の夜出歩くと』
682 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/20(日) 21:01:06 ID:CbyYU0Gd0
知り合いの話。
地元の山を満月の夜出歩くと、場違いな物に出会すことがあるという。
暗い山道が開けた場に、時折それは現れる。
白い月光が冴え冴えと降り注ぐ中、グツグツと音を立てている黒い影。
野菜や赤肉がみっしりと並べられた、ごつい鉄鍋だ。
淡い月明かりにもかかわらず、なぜか具の一品一品までよく見える。
地の上に直接置かれているのに、まるで熱い火に掛けられているかのように良い感じで煮立っている。
猟師仲間に伝わるそれは「山鍋」と呼ばれているらしい。
「大昔に儂も一回見たことがあるが、いや実に美味そうじゃった。
香りといい音といい見目といい、何とも食欲をそそったな。
うんにゃ、口にしてはおらんよ。食べたって者の話も聞いたことはないな。
儂みたいにビビッて手を着けなかったか、それとも、口にしたら帰ってこれんようになるのかもしれんの」
猟師をしていたという彼の祖父は、そう言って杯を空にした。
『菜園』
683 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/20(日) 21:03:42 ID:CbyYU0Gd0
知り合いの話。
彼は現在、山中のレンタル菜園場と契約している。
土地だけを年単位で借り、そこで好きな作物や草花を育てるシステムだという。
元は団地になる予定だったらしいが、
バブルが弾けたせいで開発が中途半端に終わり、結局菜園という場になったものらしい。
週末になると夫人と連れだってそこに行き、野菜の世話をしているそうだ。
いつの頃からだろう、菜園を荒らす者が現れた。
大根を引き抜いていると、その内の何本かに囓った痕がある。
どう見ても人の歯型であるらしい。
何かの悪戯かとも考えたが、どうにも腑に落ちなかった。
菜園仲間と話す中で、他の人達も被害に遭っていることを知った。
不思議なことに、被害は大根ばかりに限られている。
しかし、一番古株のOさんの畑の大根だけは様子が違っていた。
毎回毎回、地上に出ている青首だけを残して、地中の部分は綺麗に丸ごと食われているのだ。
「Oさんは野菜作りが上手いから。
大根も大きくて立派だし、味もさぞかし良いんだろう」
誰かがそう言ってから、不気味がっていた仲間内の空気が一変した。
誰の大根が一番食べられるのか。誰の大根が一番美味いのか。
そんな奇妙な競争が、現在菜園では、静かに繰り広げられているのだという。
正体不明の畑荒らしを審査員として。
それまで大根を作っていなかった者も参入してきており、何とも変な活気が出ているそうだ。
「いやいや、儂の農家としての腕前は、まだまだだと思い知ったよ」
彼はそう笑いながら、どこからか貰ってきた農作業の手引き書を読んでいた。
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