∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part28∧∧
『不自然な影』
581 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/16(水) 01:54:20 ID:KsGIIhNg0
先輩の話。
仲間とキャンプした時のこと。
先輩一人だけが後入りすることになり、皆と合流するため、夜の山道を足早に歩いていた。
ふと気が付くと、足元に薄く不自然な影が落ちている。
頭の真上から火で照らされているかのように、影はひどく揺らめいていた。
見上げると自分の頭上、一寸した高みに、小さな焔が見えた。
「何だ?」と思いはしたものの、どうやら火事ではないようだし、別に害がある訳でもない。
気味が悪いが放っておいて、歩き続けることにした。
火はキャンプ場近くまで、木々の高みの中をずっとつけてきたのだという。
無事に合流し、一息ついたところで「実はこんなことがついそこで云々」と打ち明ける。
そこの地のことに詳しい者が一人居て、その者が言うには、
「そりゃ天狗だよ。
天狗の御明(みあかし)っていう奴です。
君、お酒か何か持ってなかったかい?」
その日、確かに先輩は、携帯用のスキットルで洋酒を持ち歩いていた。
「これが欲しかったのかいな」
そう考えると、気味の悪さよりも酒飲みの親近感が勝ったらしい。
ちょっと悩んでから紙コップに少し分けて、キャンプ場の外れに放置しておくことにした。
倒れないよう簡単な細工をして。
翌朝、コップは綺麗に空になっていたそうだ。
『花見をした帰り道』
582 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/16(水) 01:56:06 ID:KsGIIhNg0
同僚の話。
仲間内で花見をした帰り道、忘れ物に気が付いて引き返した。
翠草の上に落とした携帯電話を無事見つけ、さぁ帰ろうと腰を上げた矢先。
少し離れた空き地で、揺れる灯りが見えた。火がチロチロと燃えている。
誰だっ、火の始末もせずに帰った奴ァ!
酔いが一気に覚め、慌てて消し止めようと走り寄った。
だが、いざ空き地に入ってみると、どこにも火など燃えていない。
少し湿った草々はどこも冷えていて、焚火をした痕跡すら見当たらない。
首を傾げながら花見場所まで戻ってくると、パチパチと爆ぜる音がした。
振り返ると、やはりあの空き地で火が揺れていた。
しかし今度はそれだけでなく、火の周りに何やら動く黒い影も薄ら見えた。
人が大勢で騒ぎ、歌など歌っているような声までが聞こえてくる。
もう一度だけ空き地に足を踏み入れ、どこにも火の気が無いことを確認すると、
彼は出来るだけゆっくりと帰途に着いた。
背後から再び物音が聞こえたが、もう絶対に振り向かなかったという。
『真っ暗な斜面に灯り』
583 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/16(水) 01:57:57 ID:KsGIIhNg0
友人の話。
配達の仕事が終り、夜の山中を配送車で走っていた時のことだ。
いつもは真っ暗な斜面に、灯りが揺れているのが見えた。炎か?
そう遠くはない場所みたいだ。藪中を歩いても十分掛かるまい。
消防団員でもある彼は、仕方なく待避所に車を停め、懐中電灯を手にして山に踏み込んだ。
近くまで寄ると、焚火の傍に小さな影がペタンと座り込んでいるのが見えた。
水色で皺だらけのパジャマ。真っ白だが、所々に灰色が混じっている髪の毛。
虚ろで無表情な、萎びたかのようなお爺さん。
「Sさん!?」
そこで膝を抱えていたのは、彼が先程まで訪れていた老人養護施設の入居者の一人だった。
時折会話しているだけの仲だが、見間違えることはない。
しかし、Sさんは車椅子を使わねば動けない筈だった。何でこんな所に?
「どうしたんですかっ」と大声を上げて、肩に手を掛けようとした瞬間。
老人の姿と焚火が、パッと掻き消えた。
いきなり漆黒の闇に包まれて、彼は軽いパニックに陥ったという。
少し経って落ち着いてから辺りを調べてみる。
誰かが居たという形跡も、火が焚かれたような痕跡も、何一つ残ってはいなかった。
慌てて引き返す。車まで辿り着く道中が、ひどく心細かった。
585 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/08/16(水) 01:59:06 ID:KsGIIhNg0
後日、再び施設を訪れた際にSさんと挨拶したのだが、あの夜のことについてはちょっと聞けなかった。
山間にあるといっても、ちゃんとした施設である。
夜中に足の悪い老人が数キロも離れた山中に出て行けるとは、どうしても思えなかったのだ。
彼はそれからしばらくの間、例の斜面に点る炎を何度か目撃した。
もう近寄るような真似はしなかったが。
数ヶ月後、残念ながらSさんは亡くなった。
すると、斜面の火も見られなくなったという。
どうやら最近、またあの斜面に火が点るようになったらしい。
「また誰かが儚くなるのかなぁ」
どことなく寂しそうに、そう彼は呟いた。
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