∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part27∧∧
『小箱』
431 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/07/22(土) 09:43:31 ID:bylFPANM0
知り合いの話。
一人で夏山に入り浸っていた時のこと。
ある夜、テントの外で「ヒャン、ヒャンッ」と動物の鳴き声がする。
チワワのような鳴き声だな。
そう思い顔を出したが、小犬の姿など見当たらない。
代わりにテントの前に鎮座していたのは、何の変哲もない小さな箱だった。
一辺が十センチくらいの、水色の小さな紙製の箱。
見つめていると箱は小さく飛び跳ね、「ヒャン」と鳴き声を上げた。
何だ何だ? 思わず駆けより、しっかと箱を捕えて蓋を開けてみる。
空っぽだった。埃一つ入っていない。微かにハッカの香りがした。
釈然としない彼は、蓋を閉め直してもう一度放置してみた。
しばらくすると、小箱は再び「ヒャンッ」と飛び跳ね出した。
確認したがやはり何も入っていない。
蓋をせずに放置すると、今度はいつまで経ってもウンともスンとも言わない。
蓋を戻すと、また不定期に鳴き始める。
何とも面妖な。しかし明日も早い。
いつまでも相手をしていられないので、放ったらかして寝ることにした。
剛胆にも子犬のような吠え声を枕に、彼は寝入ったのだそうだ。
432 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/07/22(土) 09:44:35 ID:bylFPANM0
それから四日ほど山に籠もっていたのだが、夜になると小箱がついてくる。
喧しいと言えば喧しいが、気にならないと言えば気にならない。
最終日、何となく愛着が湧いた彼は、箱を家に持って帰ることにした。
ベッドサイドに置かれた箱は、昼は決して吠えなかった。
夜になると時折控えめに「ヒャン」と吠えていたという。
食費もかからないし、散歩も必要ない。
ただ愛嬌がないし、こちらに反応する訳でもないから、ペットにゃ不向き。
というのが彼の評価だった。
残念ながらその箱は、しばらくして事情を知らない母親にゴミとして捨てられてしまったらしい。
誰かに拾われていりゃぁ良いけどなぁ。
でも吠えるゴミなんて、やっぱり誰も手を出さないかもなぁ。
彼はそう言って苦笑していた。
『庫裏』
435 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/07/22(土) 10:11:49 ID:bylFPANM0
知り合いの話。
彼の実家は山奥の神社である。
神主職を継いではいないが、社の仕事はよく手伝っているそうだ。
そこの社の裏手に、昔は庫裏として使われていた小さな建物がある。
今は単に物置として使われているらしい。滅多に出し入れは行わないが。
その近辺の掃除を、彼は時々させられるという。
いつの頃からか、その庫裏跡に入るとヒヤッとするようになった。
暑い夏の盛りでも、なぜかそこだけは空気が肌寒い感じもする。
「いや別に、嫌な雰囲気とかはまったく無いんだけどね」と彼は言う。
掃除の世話を始めて気が付いたのだが、他にも奇妙なことがある。
小さな生き物がそこを避けているみたいなのだと。
そこの建物にだけは、蜘蛛が巣を絶対に張らない。
社には毎年沢山の燕が来るが、そこにだけは巣を掛けない。
虫もそこにはまず近よらない。蚊取り線香も要らない程だ。
なのに冬前の大掃除の際には、
そこの床下からはカサカサに干からびた虫の死体が山のように出てくる。
現在、掃除を始める前には「失礼します。掃除をさせて頂きます」というような挨拶をしているのだと彼は言う。
「何が居られるのかはわからないけど、失礼がないようにね」
今のところ彼の身には、別に良いことも悪いことも起こっていないそうだ。
『サービスエリアのトイレ』
437 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/07/22(土) 10:34:22 ID:bylFPANM0
友人の話。
山中の高速道路を走っていた時のこと。
腹の具合が悪くなった彼は、最寄りのサービスエリアでトイレに行くことにした。
無事にトイレに駆け込み、ホッと一息吐いていると。
しょりっ しょりっ しょりっ
すぐ近くから、何かを混ぜるような音が聞こえてきた。
ゆっくりと米か何かを研いでいるかのような音。
自分の他には、誰も居なかった筈だけど。後から誰か入ってきたのかな。
それにしても妙な音を立てるな、何をしているんだろう?
個室のドアを開けて出ると、音はパタッと止んだ。
トイレには人っ子一人居なかった。背筋が冷えた。
思わず個室を一つ一つ覗き込んでみた。
どの個室も、白い和便器が座っているだけ。
438 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/07/22(土) 10:35:43 ID:bylFPANM0
立ち竦んでいると、どこからか再び「しょりっ」と聞こえてきた。
ゆっくりと手洗いに向かい、出来るだけ落ち着いて手を洗う。
鏡に自分以外は何も映っていなくて、本当に安堵した。
彼がトイレを出て行く時も、音は聞こえていたという。
仲間内でこの体験を話してみると、事も無げに言われた。
「あぁ○○のSAでしょ? あそこって小豆洗いが居るよね。
何人からか話を聞いているよ。
SAが出来る前は近くの集落の小川に出ていたらしいけど。
人が沢山来る方が、小豆洗いも張りがあるのかもな」
運が良いなあ、と羨む仲間を尻目に、
「妖怪って奴ァ昼間っから出るものなのか?
どっちにしろトイレで研いだ豆なんざ、俺ァ口にしたくはないね」
彼はそう言って仏頂面をした。
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