∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part26∧∧
『御犬様』
832 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/22(木) 21:55:32 ID:OjzKT0PI0
友人の話。
彼の育った山村には、一風変わった神社があった。
一見ごく小さな普通の社なのだが、おかしな言い伝えがあるのだと。
「御犬様が境内を散策される時、側に近よってはならない」
御犬様が一体どんな犬であるのかは、伝えられてはいないそうだが。
彼は小学生に入ったばかりの頃に、御犬様を見たことがあるという。
その日、いつものように社に遊びに行くと、大きな黒い犬が地面を嗅ぎ回っているのが遠目に見えた。
特別な犬だとは思わず近づいて行ったのだが、参道の途中で足が止まってしまう。
面を上げた犬の両目は、普通の犬の倍ほどもあったのだ。
あぁ、さてはこれが御犬様なんだな。
なぜかそう思えて、その場で足を返して帰ったのだという。
他にも御犬様を見た者は、何人かいたらしい。
人によって、その姿は少しずつ違っていた。
ある者は前足が異様に大きかったと言い、また別の者は尻尾が身体と同じくらいあったと言う。
どれもどこかしら真っ当な姿ではない。
しかし目撃者たちは皆、自分が見たものは御犬様に違いないと信じていたそうだ。
時たま里帰りした折に、親戚の子供達が“神社に出る奇形の犬”の話をしていることがある。
御犬様、いまだ御健在のようだね。そう言って彼は笑っていた。
『釣り人』
834 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/22(木) 21:59:57 ID:OjzKT0PI0
先輩の話。
沢に沿って歩いている時のこと。
前方より小さな、雑音交じりの声が聞こえてきた。
さては、釣り人がラジオでも聞いているのかな。
そう思いながら藪を漕いでいると、やがて開けた場所に出た。
沢に向かって突き出した岩の先端、誰かが釣竿を持って座っていた。
麦藁帽子を目深に被り、地味なジャケットを羽織っている。
腰掛けている横で、古びたラジオがノイズ混じりの歌謡曲を流していた。
少し離れた場所に握り飯が三個置かれている。一つは齧りかけだ。
「釣れますか?」何気なく声を掛けたが、返事がない。
その時、違和感を感じた。話し掛けた相手が、まるで生き物ではないような。
失礼かと思ったが、相手を確かめに近よってみた。
釣り糸を垂れているのは人ではなかった。
無骨な、丸太作りの木偶だった。
しばしそこに立ち尽くしたが、木人形が話に応える筈もない。
仕方なく「それじゃ失礼します」と挨拶し、その場を後にした。
その日は一日中、何となく落ち着かない気持ちだったそうだ。
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