∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part26∧∧
『酔い醒まし』
755 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/19(月) 23:16:34 ID:Y1f7hNfP0
知り合いの話。
彼は大層な酒飲みである。
取り締まりが厳しくなった今でも、飲み歩きを続けている。
自分で運転して帰っていると聞かされた時は、流石に「止めとけよ」と注意した。
苦い顔の私に向かい、彼はニンマリと笑いかけた。
「良い場所があるんだよ」
そこは、既に使われていない石切り場なのだという。
街外れの山中にあって、訪れる者は誰もいない。
夜中にそこへ行き、闇の中に一人佇んでいると、不思議に酔いが醒めるのだと。
「大体五分から十分も立ってりゃァ、確実に素面に戻るんだ。
一昨年したたか酔った晩に迷い込んで、偶然気が付いたんだけどサ。
取り締まりしてる道を通る前に、必ず寄るようにしてる。
裏道通れば飲み屋街からも近いし、便利なことこの上ないぜ」
話を聞きながら、ふと考えた。
彼は今体調を崩していて、飲みに行く回数も減っている。
そう言えば、どこを取っても健康そのものだった彼が通院するようになったのが、確か一昨年からではなかったか?
指摘してみたが、彼はまったく取り合わない。
「関係ないって!」そう言って屈託なく笑っていた。
本人が納得しているならいいか。そう思い、私もそれ以上は何も言わなかった。
『里外れの田中』
756 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/19(月) 23:18:31 ID:Y1f7hNfP0
同級生の話。
彼は学生時代にフィールドワークをしていた山里で、何度か奇妙な体験をしたのだという。
ある冬の朝、里外れの田中で、雀が大量に死んでいた。
白い雪の上に茶の点が撒き散らされたかのようで、あまりの数に初めは雀だとわからなかったそうだ。
研究に関わりでもあるかと調べていると、何かが死骸に突き刺さっていることに気が付いた。
茶色で尖った物が一本。赤錆びた布団針だった。
彼が手に取った雀の死骸は、すべてが背から腹まで針で貫かれていた。
結局、性質の悪い悪戯ということで処理されたらしい。
悪戯にしろそうでないにしろ、まこと気味が悪かったよ。
彼はそう言っていた。
『熊の着ぐるみ』
757 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/19(月) 23:19:52 ID:Y1f7hNfP0
知り合いの話。
寂しい山道を一人歩いている時のこと。
行く手に場違いな影が現れた。
四頭身くらいの頭でっかちな熊さんが、ふらふらとした足取りで歩いてくる。
イベントや遊園地で使われるような、熊の着ぐるみだった。
そういや、この近くに遊園地や映画撮影所なんかがあったっけ。
どちらから紛れ込んだんだろうと考えていると、嫌な臭いが鼻を突いた。
肉が腐ったかのような臭い。前方の熊ぐるみから漂ってくる。
よく見ると、熊の大きな頭が乗っている首の下から胸腹にかけて、黒い染みがべっとりと広がっていた。
山で怪我でもしたのかと思い、慌てて駆けよろうとした目の前で、
熊ぐるみは躓き前のめりになった。コロン、と熊の頭が転がり落ちる。
ゴロゴロと、何か重い物が作り物の頭の中で転がっているような音がした。
彼はゆっくり顔を上げて、胴体だけになった着ぐるみを見つめた。
着ぐるみの首上、本来は中の人の顔がある空間には、何も存在していなかった。
首なしぐるみは一瞬立ち止まったが、直ぐにまたふらふらと前に進み出した。
熊が落とした頭を拾おうと屈んだ頃、ようやく我に帰った彼は、踵を返して後も見ずに逃げ出した。
それ以来、彼は着ぐるみを見かけると身構えてしまうようになったという。
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