∧∧∧山にまつわる怖い話Part20∧∧∧(※実質21)
『旋風』
647 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/08/14(日) 00:26:23 ID:Zgeokclg0
知り合いの話。
幼い頃、山で薪拾いの手伝いをしていた時。
しゃがんで一心不乱に薪を選んでいると、カサカサという音が聞こえてきた。
息苦しさを覚え顔を上げてみると、目の前に小さな旋風が起こっていた。
灰色の砂が渦を巻いて吹き上がっている。
旋風自体は見慣れていたが、それには何やら嫌な感じを受けたという。
旋風は急に速度を上げて、ずずっと彼に迫り始めた。
思わず薪を投げ棄て、助けを求めて逃げ出した。
叫び声を聞いて飛んできた祖父は、旋風を認めて険しい顔になった。
彼を後ろに庇うとずらりと山刀を抜き、躊躇なく渦の真中に切りつける。
しゅんっ、と音を立てて、旋風は消滅した。
大きく息を吐いた祖父さんは、彼の頭を撫でながらこう言った。
「あの旋風はダイバカといってな、馬を殺す風だ。
あれが鬣に触れると、馬は居っ立って、口から血泡ぁ吹いて死んじまう。
昔は馬を飼ってた馬子も多かったからな、この辺りにもよく出たもんだ」
不安になった彼に「人は取り殺さないから、まぁ大丈夫だろう」と祖父さんは告げて、
そのまま薪拾いを続けさせたそうだ。
『アナジ』
648 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/08/14(日) 00:28:08 ID:Zgeokclg0
後輩の話。
以前、山奥の親戚の家を訪れた時のこと。
そこは地方の旧家で、一風変わった古物が沢山あったのだという。
彼はその手の物に目がない。早速、蔵の中を見せてもらった。
年季の入った骨董を感心しながら巡るうち、奇妙な物を見つけた。
黒くて少し大き目の風車。奇妙なのはその材質だった。
薄く叩いてはいるが、どう見ても鉄で出来ていた。
錆がごつごつと浮いており、かなり強く息を吹きかけても回らない。
彼がそれを弄りまわしていると、お祖母さんがお茶を持ってきてくれた。
手の中にある風車を見て「それはアナジを知らせる印だよ」と教えてくれる。
アナジとは専ら冬に吹く強風で、良くない物らしい。
これが吹くとその数日後に、決まって大火が起こったのだという。
「昔の家は木造ばかりだからね、こんな山奥で火事になると大変だったよ」
こんな鉄の風車を回す風って、どんな風なんだろうな。
彼はぼんやりとそう思った。
更に聞くと、最近アナジは滅多に吹かなくなったそうだ。
「温暖化って言うのかしら、そいつの影響かもしれないねぇ」
お祖母さんはそう言って、一人うんうんと頷いていた。
『生暖かい風』
649 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/08/14(日) 00:31:20 ID:Zgeokclg0
友人の話。
山道整備のボランティアをしていた時のことだ。
邪魔になる張り出し枝を切っていると、不意に生暖かい風に包まれた。
途端に背筋がきゅっと冷たくなる。何だこの風は?
鋸を取り落として身体を抱きしめた次の間、目の前を何かが横切った。
長い髪を振り乱した青白い生首が、風の中に舞っていた。
嫌になるくらいに無表情だったという。
あっという間に首は流れて消えた。周りの空気が正常に戻る。
しかし、身体に取り付いた悪寒は去らない。
青い顔をして詰め所に戻ると、今見た物を告げた。
誰も信じてくれなかったが、責任者格のお爺さんは一人こう言ってくれた。
「悪い風に行き合っちまったな。今日はもう降りろ」
そして「まず熱が出るから大事にしてな」と付け加えられた。
その言葉通り、彼はその夜から二日間ほど寝込んでしまったという。
後で聞いたところ、件の風は地元では山ミサキと呼ばれているらしい。
出くわすと大熱を発し、運が悪いと死んでしまうこともあるのだと。
そんな目に合ったにも拘わらず、彼は今でもそこのボランティアに毎年参加しているそうだ。
「ま、死ななかったしな」そう言って頭を掻く。
ただその山に入る前に必ず、登山口で線香を上げるようになったそうだ。
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