∧∧∧山にまつわる怖い話Part20∧∧∧
『山の小道』
243 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/06/22(水) 18:56:22 ID:9DsbDFBM0
友人の話。
彼女の実家は小さい山を持っている。
その麓に“入ってはいけない”と、家族から言い聞かせられていた小道があった。
なぜ入るのが駄目なのかは、教えられていなかったという。
幼い頃、その山で遊んでいた時のこと。
きつく注意されていたので、件の小道には近寄らないようにしていた。
と、いきなり「おいっ!」と声がして、肩をグイとつかまれ引っ張られた。
驚いて顔を上げると、お祖父さんが怖い顔をしている。
その時初めて、自分がその小道の入り口付近に居ることに気がついた。
なぜそこに近付いてしまったのか、全然覚えていない。
祖父曰く、黒い影が、彼女の手を引いて小道に入ろうとしていたのだと。
影はぼんやりとしていて、彼女と同じくらいの背丈だった。
人型をしていて、まるで真っ黒い子供を連想したそうだ。
それから間もなく、小道を囲むように鉄条網で柵が設けられた。
彼女の祖父さんと父親とで拵えたらしい。
以来、そこら一帯の原は寄る者も居らず、放っておかれるままだという。
『ダムの一角』
244 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/06/22(水) 19:00:03 ID:9DsbDFBM0
同僚の話。
彼は仕事の関係で、ある山中のダムへ足を運んでいる。
いつの間にかそこの管理人さんと仲良くなり、四方山話などするようになった。
聞かせてもらった話の中に、ひどく不気味な物があったという。
ダムの一角に、下の水面が覗き込めるようになっているポイントがあった。
丁度、柵の切れ目に当たっていたらしい。
「悩み事とかある人は、一人であそこに行っちゃいけないんよ」
「飛び降りちゃうからですか?」
「うんにゃ、突き落とされるんだ」
「・・・誰にですか?」
「いや、誰も居ないみたいなんだけどな」
悲鳴を聞いて駆けつけると、青い顔で「誰かに後ろから押された」と訴えられる、
しかし周りには誰も見あたらない・・・そんなことが過去に何回かあったのだと。
毎年何人か投身自殺があるが、その内には死ぬつもりなどなかったのに落とされた者もいるのかも。
管理人はそう疑っているのだそうだ。
つい先日、そのポイントには高い柵が設けられたそうだ。
『滝の音』
245 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/06/22(水) 19:00:51 ID:9DsbDFBM0
私の体験した話。
初めて一人用ツェルトを買った時、嬉しくて、何泊か山で過ごす計画を立てた。
初日にキャンプしたのは、ある鄙びた神社の外れだった。
境内から少し下った所に滝があり、辺りは開けた砂の河原になっている。
一目で気に入り、そこで一泊することにした。
夜も更けた頃、カンテラの灯を落としてシュラフに潜り込んだ。
滝のドゥドゥという音を聞きながら微睡んでいると、突然世界から音が消えた。
痛いくらいの静寂に驚き、ツェルトから飛び出すと―
滝が制止していた。まるで時が止まったかのように。
宙の白い飛沫や淵の波紋までが、月明かりの下くっきりと見える。
辺りは何の音もしなかった。世界で動いているものは、私の鼓動と数匹の蛍だけ。
去った時と同様、唐突に音が戻ってきた。
同時に滝が再び流れ始め、水の轟きが響き渡る。
私はしばらく滝の前に立ち尽くしていた。
蛍は何事もなかったかのように舞っている。
凍えるような、それでいて泣き出したくなるほど、儚く美しい光景だった。
もう一度目にしたいが、今のところ叶わないでいる。
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