∧∧∧山にまつわる怖い話Part18∧∧∧
『嘘吐き?』
787 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/04/07(木) 22:46:39 ID:E9cx3X+30
先輩の話。
彼は母校の山岳部キャンプに指導員として参加している。
ある年どうしても一緒に行けなくなり、キャンプ地で後から合流することにした。
予定が大幅に遅れ、夕暮れの山道を足早に歩いていると。
「あなたは嘘吐き?」
いきなり後ろから声がかけられた。
驚いて振り返るが、闇に沈み始めている森の中には何も見えない。
「ねぇ、嘘吐きじゃないの?」
再び声がする。声の主は見えないが、小さくて無邪気な女の子のようだ。
生真面目な先輩は、むぅ、と少し考えてから答えた。
「他人を傷つけようとして嘘を吐いたことはないぞ」
するとザワザワっと辺りの木々が蠢いた。
「ちぇっ」と残念そうな声を最後にざわめきが納まる。
それ以降、声は二度と聞こえなかった。
何だったんだろうと考えながら歩いているうちに、段々と怖くなったという。
キャンプ地に着いて後輩たちと合流した時は、心底ホッとしたそうだ。
後日その地方に伝わる伝承話を知ったそうだ。
その昔、人を獲る物の怪が出たのだが、通りがかった旅の僧に懲らしめられたと。
僧曰く「悪人以外は襲ってはならん」と言い聞かせ、物の怪も改心したという。
「嘘吐きって悪人なのかな? でも程度によるよな」
あくまでも真面目な先輩は、この話をし終わってからも、一人考え込んでいた。
『黒い影が踊っていた』
842 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/04/09(土) 16:36:21 ID:Qq/Gl4iE0
知り合いの話。
秋山で、一人露営していた時のこと。
そろそろ寝ようかという頃合に、微かな音が聞こえた。
音のする方を見やると、営地の外れで黒い影が踊っていた。
黒く濡れたような細長いリボンが、回るように歌うように踊っている跳ねている。
鼬だった。白く大きな満月の下、一匹の鼬がクルクルと舞っていた。
まるで水墨画がそのまま動き出したような、幻想的で幽玄な雰囲気に飲み込まれ、そのまま魅入ってしまったそうだ。
どのくらい経ったのか。我に帰ると月は既に傾き、鼬も消えていた。
頭を一つ振ると、左の手首に鋭い痛み。ぱっくりと傷が開いており、血が出ていた。
幸い傷は小さく血も止まりかけていたので、応急処置をして寝たという。
山を降りてから、知り合いの炭焼きにこの話をしてみた。
「そりゃ化かされたな。あいつ等の中には血吸いもいるからなぁ」
炭焼きが言うには、年経た鼬は人を化かすようになるのだという。
そのような古鼬は、人間を幻惑して夢現の状態にできるそうだ。
術にかかった人間が桃源郷に遊ぶ間に、ゆっくりと血を吸うのだと。
「大して出血する訳でないし、怪我も小さいけど、一応注意しとけ」
そう言いながら、炭焼きは竹で焼いたという塩を振りかけてくれた。
彼はそれを聞いても、なぜか怖いとか嫌だとかは思わなかった。
以来、苛々したりすると、あの白と黒の情景を思い浮かべるようになったという。
そうすると不思議に心が静まるのだと。
「俺は未だに化かされているのかもしれないな」
そう言う彼の顔はどこか穏やかに見えると、私は最近思うようになっている。
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