∧∧∧山にまつわる怖い話Part12∧∧∧
『メンコ』
469 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/09/05 23:20 ID:qudfF4Sa
友人の話。
里山を歩いていた時のこと。
少し奥に入ったところで、小さな集落跡を見つけた。
十に満たない家屋は、一つを残してすべて崩れ落ちていた。
おっかなびっくり中を探索してみる。
畳床の落ちた和室の片隅に、一つだけ小奇麗な小箱を見つけた。
中に入っていたのは、多種多様なメンコだった。
厚紙を重ね蝋で閉じた、手作りのしっかりとした物だったそうだ。
外に出て、そのメンコを使ってみた。
ピシャリ! ピシャリ!
静かな廃村の中に、メンコを叩きつける音だけが響く。
在りし日の情景が偲ばれて、ひどく物哀しい気持ちになった。
メンコを廃屋に戻し、帰路に着いた。
その時になって、彼はメンコに触れたことを後悔したという。
彼のすぐ後ろから、ピシャリ!ピシャリ!という音がつけて来たのだ。
振り向いても何も見えず、だが音だけは着実に後をついて来る。
まるでどこかの子供が、彼の背後でメンコ遊びをしているかのように。
麓に下りて大きな道に出ると、音はようやくついて来るのを止め、
夕暮れの山の中へと引き返していったそうだ。
『ビールの空き缶』
470 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/09/05 23:22 ID:qudfF4Sa
後輩の話。
学生時代に、仲間と共によく山登りしていたという。
梅雨明けのある時、いつものようにテントを張り、酒盛りをしていた。
散々缶ビールを飲んでへべれけになってしまい、片付けは翌日ということにして早々と寝たのだそうだ。
夜半にテントの外で音がする。
何かがゴミを荒らしていると思い、寝ぼけ眼をこすりながら外を覗く。
一メートルもある大きな蛞蝓が三匹、真っ黒な身体を波打たせていた。
蛞蝓は、ビールの空き缶の山に顔を突っ込んでいる。
慌ててテントの入り口を閉め、寝袋に潜り込んだ。
仲間は誰も目を覚まさず、ひどく心細かったという。
翌朝見てみると、空き缶はすべてクシャクシャに潰されていた。
テント周りの地面には、乾いて光る筋が何本も残されていたそうだ。
後で調べたところによると、蛞蝓は麦芽酵母の匂いに惹かれるらしい。
「あの山に行く時は、ビールじゃなくて焼酎にした方がいいですよ」
そう言う彼の言葉は、どこかポイントがずれていると私は思う。
『猪捕獲網』
471 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/09/05 23:23 ID:qudfF4Sa
私の体験した話。
仕事で遠出する際に、近道をしようと山中を突っ切ることにした。
普段と違う道を走っていると、小さな鉄工所の傍を通り過ぎた。
道に面して奇妙な物が置いてある。
金網ともう一つ、まるでフォークリフトの出来損ないのように見えた。
興味を引かれ、車から降り近寄ってみた。
まず金網の方を見た。ぶら下げられたタグには『猪捕獲網』とある。
頑丈な金網が編み込まれ、罠のような構造になっているようだ。
それから問題の、奇妙な作業機械に目をやった。
薄緑色に塗られたその機械、何と説明したら良いものか。
下部には二つの小さなキャタピラがあり、その上に剥き出しの座席。
前面にはショベルカーのようなバケットが付いている。
そこまでは良い。小型のパワーショベルといえないことも無いだろう。
472 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/09/05 23:25 ID:qudfF4Sa
理解できないのは、機械上部に設けられた二本のアームだ。
多関節構造で、先端には解体で使われるような大きな爪が付いている。
どうやら油圧で制御するらしい。何なのだ、これは?
その機械にもタグが下げられていた。
『猪捕獲機』
まじまじと機械を見直す。
爪やバケットに、硬い物と擦れたような傷が、何箇所も付いていた。
実際に使われたことがあるのだろうか?
話を聞いてみたかったが、生憎と誰もいない様子だった。
首を小さく振ってからその場を後にする。
その日一日中、その機械に乗って猪と格闘する山男のイメージが、頭をよぎって離れなかった。
あれから何度か横を通ってみたが、その機械はもう置かれていない。
網はそのまま残されている。
なぜかもう話を聞く気も起こらず、あれは白昼夢だったのかとも今は思う。
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