∧∧∧山にまつわる怖い話Part12∧∧∧
『風に吹かれている』
157 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/30 03:49 ID:9FcSlR62
知り合いの話。
彼の親戚に、老いた猟師がいたそうだ。
もう猟で生計を立ててはいなかったが、よく彼を山に連れて行ってくれた。
動物の名前や食べられる野草、天気の読み方など、沢山のことを教わったという。
ある時、彼は山で奇妙な物が、風に吹かれているのを見た。
黒くて細長い毛皮の切れ端のように見えた。
まるで意思を持っているかのように、枝にクルクルと絡まったりしている。
叔父さんに知らせると、顔をしかめて注意された。
近づくなよ。かぶられる(噛み付かれる)ぞ。
彼は慌てて叔父さんの元へ走り逃げた。
聞けば、風に乗り移動する小型の獣だという。
普段は山奥にいるのだが、時折こうして里の近くに下りてくる。
あれが来ると、なぜだか獲物がまったく獲れなくなるのだと。
そんな話を聞きながら、一緒に山を下りた。
その叔父さんも既に亡くなり、彼も滅多に山に入らなくなっている。
『巻狩り』
158 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/30 03:49 ID:9FcSlR62
友人の話。
彼の義理の父親は猟が好きで、地元の猟友会に所属している。
ある時、その猟友会主催で巻狩りが催された。
巻狩りというのは、多勢の猟師が狩り場を四方から取り囲み、獣を追い立てて捕らえる狩りなのだそうだ。
義父は追い立てられた獲物を仕留める側だった。
息を殺して待つことしばらく。
やがて目の前の繁み奥から乱雑な音が近づいてきた。
猟銃を構え待ち構えていると、耳元の無線が叫ぶ。
撃つな!逃げろ!!
慌てて銃を下ろすと、繁みからは見覚えのある人影が数人飛び出した。
仲間の勢子(追い立てる側)たちだった。
口々に「逃げろ!」と叫び、義父を引きずって走り出す。
何から逃げているのか、皆目見当もつかない。
結局、その時山に入っていた全員が、麓の駐車場まで走って下りることになった。
責任者が狩りの中止を宣言し、その場でお開きとなる。
青い顔をした者に事情を聞いたが、首を振るばかりで何も答えない。
一体何があったのか、今に至るも教えてくれないという。
『山葵』
159 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/30 03:55 ID:9FcSlR62
知り合いの話。
彼の伯父は持山の沢に、小さな作業小屋を持っている。
山の中で遅くなった時に宿泊するため、伯父が手ずから建てたのだそうだ。
先日里帰りした時分、彼は伯父と一緒に山に入った。
親戚の分の茸を採る手伝いをしたという。
その折に件の小屋を見たのだが、気になったことがあった。
小屋の周りは水浸しで、渡り板で出入りするようになっていた。
その水の中に鮮やかな緑が伸び上がり、小屋の周りを三重に取り囲んでいたのだ。
見たところ、わざわざ手をかけて水を引き、その植物を植えているらしい。
これは何?と問うと、山葵だという応えがあった。
現物の山葵を見るのが初めての彼が感心して見ていると、伯父はこう続けた。
「―はこれを越えては来んからな。山葵が苦手なんだろう」
今何と言ったの?聞き取れずに尋ねると、伯父はハッとしたような顔になる。
いや、何でもないさ。只の園芸代わりというか、手慰みだ。忘れてくれ。
伯父はもうそれしか口にせず、何を聞かれてもはぐらかした。
あの山、何か変わったモノがいるのかな。
土産の茸と山菜を分けてくれながら、彼はこの話をしてくれた。
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