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『未来予知』

師匠シリーズと同じ作者。
新 鼻 袋 ~第四夜目~

378 :ゴーストハンター:04/04/10 17:58 ID:OJYaG4x3
私は繁華街の裏道を通り、看板もない寂れたビルの地下階へ降りていった。
ドアにはこうある。
『占い』
シンプルだ。
仕事柄こういう怪しげな商売と関わることも多いのだが、あまり楽しい思い出はない。
ドアを開けると、予想通り暗い室内に御香のような匂いがほのかに漂っていた。
蝋燭の明かりが点り、黒い布で覆われた机に女性が座っているのが見えた。
「ようこそいらっしゃいました小田切さん」
私は思わず近寄ろうとした足を止めた。
「なぜ名前を」
黒いヴェールを頭から被っているが、口元が笑ったのを確かに見た。
「あなたが自己紹介なさったのよ」
私は勧められて向かいの椅子に腰掛けた。


379 :ゴーストハンター:04/04/10 17:58 ID:OJYaG4x3
「まだしてないはずですが」
「ええ。あなたが自己紹介した未来はいま消滅しました」
なんだこの女は。
私のクライアントが話したのだろうか。
いやそんなはずはない。
「ですから私があなたの名前を知ったのは、
 『ようこそいらっしゃいました小田切さん』という私自身の言葉を予知しただけのことです」
意味不明の言葉を吐く女を気味悪く見つめた。
「あいにく紅茶しかないのですが、あなたのお口に合わなかったようなので、お出ししません。
 さっそくご用件の方へまいりましょうか」
「・・・ええ、」
口を開きかけた私を制するように、彼女は小箱を2つ懐から取り出した。
「ご希望の品はこの中にあります。
 ただし、あなたは私にとって招かれざるお客だったので、無条件で差し上げるわけにはまいりません。
 左の箱と右の箱。
 お好きな方を一つだけお取り下さい。どちらかに入っています。
 ただし、『あなたが両方の箱を開ける』と私が予知していた場合には、ズルへの罰としてどちらの箱にも入れていません」


380 :ゴーストハンター:04/04/10 17:59 ID:OJYaG4x3
女は口元だけで笑った。
「その前に、携帯電話を切って頂けますか。必要のないニュースが二つ。
 これだけは私がどう誘導しようが鳴ってしまうので・・・」
私はしぶしぶ従った。
目の前には二つの小箱。
この女は予知能力者を演じているらしい。
「私が何を求めてここへ来たのかご存知だったのですか」
小さく頷いたようだ。
右か、左か。
どちらかに入っているなら、両方開ければ良いだけのこと。
私は迷うことなく二つの箱を開けた。
どちらも空の箱だった。
「ははは。冗談がお好きですね」
不愉快だ。
両方開けたことによって、不定だった未来が確定し、その瞬間に中身が消滅したとでも言いたいのか。
「もし私が、どちらかの箱を選んでたまたま『当たり』だったとして、
 そのあとすぐにもう片方を開けると、両方開けたわけですから中身は初めからなかったことになるはずですが・・・
 その場合はすでに出ている『当たり』は、目の前でパッと消えてくれるんですかね」
私はこのくだらないゲームの瑕疵を指摘した。


381 :ゴーストハンター:04/04/10 18:00 ID:OJYaG4x3
女は箱を仕舞いながら答えた。
「その通りです。現にあなたは当たりを引いたではありませんか。
 残念ながらもう片方も開けたので遡って消滅しましたが。
 いずれにせよあなたにはもう見えなくなった世界の話です」
詭弁だ。
この女は実に不愉快なペテン師だ。
単に私の希望する品物を知らないのだ。
もちろん私が言ってないのだから当然だ。
それをこんな手の込んだペテンで誤魔化そうとしている。
名前を当てられたのは不可解だが、この世界では独特の情報網というものがある。
占い師などというものは得てして、稀代の情報通なのだ。
また紅茶が口に合わなかったと言っていたが、確かに私は紅茶は嫌いだ。
しかし何も相手が紅茶嫌いでないと成り立たない話ではない。
銘柄によってはまったく味が違うからだ。
携帯電話にしても結局電源を切ったのだから、どうとでも言える。


382 :ゴーストハンター:04/04/10 18:02 ID:OJYaG4x3
「ご用件は済みましたね。もうお帰り願えますか」
しゃあしゃあと、女は言った。
私はこのペテン師をやっつける方法を考えていた。
なにかカマしてやらなければ気がすまない。
「あなたはどうやら大変な予知能力を持ってらっしゃるようだ。
 ではどうでしょう、これから私があなたに乱暴するとしたら」
狭い室内に二人きり。そしてこんな場所には誰も来ない。
「見えてますか、未来とやらが。どう対処するのですか。
 この間合いではあなたはなにも出来ない」
女は微動だにしない。
口元は笑っている。
私にそんな真似できないと高を括っているのだろうか。
私はやるつもりだった。
アウトローを気取るつもりはないが、この程度のことは私にとって大したことではないのだ。
なのに、女は動かない。
このことこそが、この女がペテン師であることの証明だ。
5分、いや2分後には、私が飛びかかるという確実な未来が見えていないのだ。

その時、女が静かに口を開いた。


383 :ゴーストハンター:04/04/10 18:03 ID:OJYaG4x3
「かまいませんよ。
 お好きになさって。
 そうなれば私はこの予知夢から目覚め、
 あなたがやってくる前に、
 本日休業の札を掛け、
 ドアに鍵を掛ける、
 それだけのことですから」

一瞬息が止まった。
腕時計の音だけが暗い室内に響く。
嫌な汗が首筋を流れていく感覚だけがあった。
そして私は目の前の女が、「冗談ですよ」と口元だけで笑う瞬間を待ちつづけた。


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