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『うしおに』


∧∧∧山にまつわる怖い話Part19∧∧∧

867 :N.W:2005/06/08(水) 13:11:32 ID:rnDLbNgX0
今は昔。
頃は春。まだ幼稚園に上がる前、初めて田舎へ一人旅をした時の事。

私の田舎は千葉県蓮沼村、九十九里浜の真ん中辺りだ。
今夜到着する母の為に、祖父ちゃんと裏山へ山菜取りに行く事にした。
子供用の背負いカゴに、ケモノ除けの鈴を祖母ちゃんに付けてもらう。
それは“すず”と言うより“りん”のような良い音がする鈴で、
いつもは祖母ちゃんが持っている家の鍵に付いている、私の大のお気に入りだった。
春でいっぱいの野山はそれだけで嬉しい。
それに、祖父ちゃんは物知りだから、また何かいっぱい教えてもらえるような気がして、私はご機嫌だった。

やがて、山菜を採り始めてしばらく経った頃、祖父ちゃんの姿が見えなくなった。
私のいる所はほんの少しばかり開けて道のようになっているが、
周りはぐるっと木々で囲まれており、その向うの様子が分らない。
裏山には何度か来た事があるのだが、この場所には見覚えがない。
でも、大丈夫。大人とはぐれても、そこから動かずすぐに呼子を鳴らせば必ず誰かが見つけてくれる。
そう言聞かされていたから、私は首から提げた呼子を引張り出し、それを口に当てようとした。
その時だった。
牛に似た大きな真っ黒なモノが唐突に現れた。私との距離は10メートルもない。
きっと、闘牛の横綱牛でさえ、そいつの前では仔牛に見えただろう。
墨のような体。黒光りする二本の少し内側に曲った角。肉色の赤い目。白い泡を吹いた口。
その口元からは牛馬のいわゆる下駄っ歯ではなく、肉食獣の鋭い黄色い牙が覗いている。
そいつが睨んでいるのは私だった。


868 :N.W:2005/06/08(水) 13:12:23 ID:rnDLbNgX0
恐ろしい、攻撃の気持ち、殺気が私に向ってやって来る。
動けない。
呼子はとうに手の中から滑り落ちている。
ヤツが頭を振立て、前脚で地面を掻いた。
来る!?
頭の中で心臓が爆発しそうになり、思わず半歩下がった時、鈴が鳴った。
《リィィィィィィ………ン》
すると、なぜかヤツが地面を掻くのを止めた。
私はなるべくそうっと背負いカゴを降ろし、外した鈴をもう一度鳴らしてみた。
《リィィィィィィ………ン》
ヤツはじいっとこちらを見ている。
余韻の途切れた所でまた鳴らす。
《リィィィィィィ………ン》
《リィィィィィィ………ン》
何度も何度も鳴らす内に、ヤツの攻撃の気持が静まってきたようだ。それが証拠に口元の白い泡がだんだん消えていく。
私は必死だった。早くこいつが消えてほしい、ただそれだけを念じつつ鈴を鳴らし続けた。
《リィィィィィィ………ン》
《リィィィィィィ………ン》
どれほど鈴を鳴らしたか。
ヤツの目が眠たげになってきた。
(眠れ眠れ眠れ!消えろ消えろ消えろ!)
腕がだるいのを通り越し、そろそろ痛み始めた頃、やっとヤツは目を閉じた。
(やった!!)


869 :N.W:2005/06/08(水) 13:13:07 ID:rnDLbNgX0
不思議な事に、ヤツが人間のようにこっくりこっくりやる度に、ヤツの体がずんずん地面に沈んでゆく。
…膝、…腹、…喉、…背、…頭。
何でもいい、早く消えろ!
もう腕は鉛のように重いが、私は歯を食いしばって鈴を鳴らし続けた。
《リィィィィィィ………ン》
《リィィィィィィ………ン》
とうとう、ヤツの角が地面の中へ吸込まれるように消えて行った。
が、すぐに止めるとまたヤツが現れそうな気がする。それが恐くて鈴を鳴らし続けた。

それから間もなく、後ろから祖父ちゃんが私を呼んだ。
「祖父ちゃん!」
祖父ちゃんが神様に思えた。


870 :N.W:2005/06/08(水) 13:13:41 ID:rnDLbNgX0
駆けよった私の手を祖父ちゃんはしっかり握りしめ、ただ「帰ろう」と言った。
一言も言葉を交さず戻って来た私達に、家の前の畑にいた祖母ちゃんも何事かただならない雰囲気を察したらしく、
不安げな面もちで畑仕事の手を止めた。
手だけ洗うと、祖父ちゃんに連れられて仏間へ行った。祖母ちゃんも後から付いてくる。
「何があった?」
きちんと正座した祖父ちゃんの前で、私はさっきの出来事を話した。
祖母ちゃんは途中から小声でお念仏を唱え始め、ぎゅっと私の体を抱きしめる。
「…祖父ちゃん、あれは何?」
祖父ちゃんは少し考え、こう答えた。
「多分、それは大昔から言われている、“うしおに”と言うバケモノに違いないじゃろ。
 “うしおに”と言うのは、大きな大きな真っ黒けの牛のようなバケモノで、
 それに出会うた者はほとんど角で突き殺され、
 バラバラになった死骸が高い木の上に引っ掛けられたり、深い谷底へぶちまけられたりするそうじゃ。
 “うしおに”はな、いつどこの山にでてくるか、誰にもわからんのだと。
 今日は、おまえは助かった、けれどもこの次は助かるかどうかわからん。
 だからおまえは今後、海、山に行く時は必ず魔除けを持って行け。いいな?」

…以来、ヤツには出会っていない。(もちろん会いたくないが)
でも、背中で祖母ちゃんの鈴が鳴る度、あの時の事を思い出す。
今もヤツはどこかの山へ姿を現しているのだろうか。


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[ 2016/02/01 ] 山にまつわる怖い話・不思議な話

[ 104185 ]

幼稚園に上がる「前」に一人旅をした投稿者のアグレッシブさに度肝を抜かれた。
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104197 ]

読み手を引き込むような文才だな
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104198 ]

まじか。バケモノの容姿とか想像するのは楽しかったけど文に魅力は感じなくてほぼ読み飛ばしたわ。おれには合わんかった。
牛頭のデーモンを想像しました。
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104201 ] NO TITLE

蓮沼村にも野山とかあるのか
九十九里の平べったい土地かと思ってたけど
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104207 ] NO TITLE

>>104185
一人旅っていったら、親の同伴なく自分だけで田舎へ向かうことだと思うよねw
幼稚園行く前の子が一人旅とか怖すぎるw
これは初めてのひとりでお泊まりのことなのかな?
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104213 ]

幼稚園って3歳だよね?
すげぇなーって。
うちの3歳の子、田舎へ一人で行けないしさー。
って、小学校に上がる前と間違えたんだよね。
そうじゃないと!ね!
だだのバーローだよ!
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104221 ] NO TITLE

この人の名前が新平さんなら、相撲をとってやれば満足して帰ると思うよ!
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104236 ]

一瞬タイトルをうしとらと読み違えてうしおととらの事かと思ってしまった...
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104239 ]

早行きのわたしは5才で
幼稚園に入園(年長組に)して
一年通っただけだよ

この主も遅れて入園したのかも
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104247 ] NO TITLE

うしおににとって、鈴の音はいい子守歌みたいなもんだったのかな?
きっと心地よい音なんだろうね
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104256 ] NO TITLE

鈴の音って魔除けになると言うよね
[ 2016/02/01 ] ◆-

[ 104406 ]

牛鬼淵のうしおにみたいなやつかな
[ 2016/02/04 ] ◆-

[ 104462 ]

日本刀がひとりでに飛んで牛鬼退治した昔話はロマン
(サムライに憧れる外国人ならなおさらかな?)
[ 2016/02/05 ] ◆-

[ 104576 ] NO TITLE

千葉辺りの牛鬼って山に出るタイプだっけ?
[ 2016/02/07 ] ◆-

[ 104790 ] NO TITLE

千葉県民だけど、そんな深い山が蓮沼辺りにあったかなぁ? 30mあれば山っていう県民性だけども。
[ 2016/02/10 ] ◆-

[ 105084 ] NO TITLE

蓮沼村はほぼ隣町ってとこが故郷だけど、
山菜が取れるようなちょっとした森(林?)や竹薮はそこかしこにあったから、
幼かった投稿者は山だと思い込んでたのかもね。
[ 2016/02/14 ] ◆-

[ 110743 ]

104198
そういうのは別に報告しなくていいから
知性を感じるいい文章だと思いました 読書家っぽいね
[ 2016/05/16 ] ◆-

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