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『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』2/4

「『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』1/2」の続き
寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。

46 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:47:44.89 ID:uxwqRYpB0
でもミヤギはしらけっぱなしだった。「皆、同じことを言うんですよ」

「どういうことだ?」と俺は聞いた。

「死を前にした人は、皆、極端なことを言うようになるんです。
……でもですよ、クスノキさん。よーく考えてください」
ミヤギは感情のない目で俺を見すえて言った。

「三十年で何一つ成し遂げられないような人が、
たった三か月で何を変えられるっていうんですか?」

「……やってみなきゃわかんないさ」と俺は言い返したが、
実際、彼女の言ってることは、どこまでも正しいんだよな。


48 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:50:44.18 ID:uxwqRYpB0
俺はそこであることに気付いて、ミヤギに聞いた。
「なあ、あんた、もしかして、この先三十年かけて俺の人生に起こるはずだったこと、全部知ってんのか?」

「大体は知ってますよ。もう意味のないことですけどね」

「俺に取っちゃ相変わらず有意味だよ。教えてくれ」

「そうですねえ」とミヤギは足を崩しながら言う。
「まず一つ言えるのは、あなたが売った三十年の中で、
あなたが誰かに好かれることはありません」

「それって悲しいことだよな」と俺は他人事のように言った。

49 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:53:18.82 ID:uxwqRYpB0
「あなたは誰のことも好きになることができず、
そんなあなたを周りの人間が好きになるはずもなく、
相互作用でどんどんあなたと他人の距離は開いて、
最終的に、あなたは世界に愛想を尽かされるんです」

ミヤギはそこでちらっと俺の目を見た。

「『それでも、いつかいいことがあるかもしれない』。
そんな言葉を胸にあなたは五十歳まで生き続けますが、
結局、何一つ得られないまま、一人で死んでいきます。
最後まで、『ここは俺の場所じゃない』って嘆きながら」

「それって悲しいことだよな」と俺は機械的に繰り返した。
でも内心、やっぱりしっかり傷ついていた。
ただ、かなり納得できる話でもあったな。


50 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:56:24.25 ID:uxwqRYpB0
さらにミヤギが続けた話によれば、
俺は四十歳でバイク事故を起こすらしい。
その事故で顔の半分を失い、歩けなくなるとか。

かなり気のめいる話だったが、一方で、
それを経験する前に死ねることを考えると、
案外俺はラッキーなのかもしれないと思った。

そうなんだよな、半ば期待する余地があるから、
五十年も無意味な人生を送ったりしちまうんだ。
完全に良いことが何もないって分かってれば、
逆に何の未練もなく逝けるってもんだ。


51 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 14:58:44.63 ID:uxwqRYpB0
俺は気を紛らそうとして、テレビをつけた。
番組ではスポーツ特集をやっているらしかった。
まずいと思ってチャンネルを変えようとした頃には、
弟の顔と名前がしっかり画面上に出ていた。

俺は反射的にグラスを投げつけてたね。
テレビが倒れて床に落ち、グラスの破片が飛び散る。

俺はふっと我に返り、ミヤギの方を見る。
彼女は明らかに警戒した様子で俺のことを見ている。

「弟なんだよ」と俺は努めて明るく言ったんだが、
それが逆に本格的にイカれてる人っぽくて笑えたな。

「……弟さんのこと、あんまり好きじゃないんですね?」
ミヤギは軽蔑するような調子で言った。
「あんまりね」と俺はうなずいた。
隣の部屋から壁を殴る音がした。


52 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:00:43.05 ID:uxwqRYpB0
割れたグラスを片付けたりなんかしていると、
俺の酔いはまずい感じに醒めてきた。
このまま完全にアルコールが抜ければ、
最悪の精神状態になるのが目に見えてた。

だから俺はある人に電話をかけたんだ。
思うに、これもまた最悪の選択だったな。
俺ってやつは、自分で自分の人生を悪い方向に転がすことにかけては一流なんだ。

電話の相手は、高校の頃の一番の友人だった。
数か月間一度も連絡をとってなかったのに、
「今から会えないか」なんて無茶なことを言う俺に、
友人は「今からそっちにいくよ」と快く応じてくれた。

その時は、ちょっと救われた気でいたな。
まだ俺のことを気に掛けてくれている人がいるんだ、って思った。


53 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:03:11.81 ID:uxwqRYpB0
この上なく情けない話なんだけどさ、
友人と会うにあたって、俺にはちょっとした下心があった。

このミヤギって子、見てくれはそれなりなんだよ。
愛想はないけど、ふるまいがかわいいんだ。
その子が俺の後ろをずっとついてくるわけ。
そりゃ、それが監視員の仕事だからな。

でさ、スーパーを歩いてる最中、俺は思ったんだよ。
周りには、俺たち恋人同士に見えてるんじゃないか、って。
むしろそれ以外の何に見えるって言うんだろうな?

俺は、友人がそういった勘違いをしてくれることを期待してたんだ。
かわいい子を連れてることを自慢したかったのさ。
聞いてる方が恥ずかしくなるような動機だろ?
だが俺にとっては切実だったんだ。


54 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:07:06.57 ID:uxwqRYpB0
レストランのテーブルにつくと、ミヤギは俺の隣に座った。
俺は満足して、早く友人が来ないかとうずうずしてたね。

時計を見る。ちょっと着くのが早すぎたらしい。
友人が来るまでコーヒーでも飲んで待つことにした。

ウェイトレスが来ると、俺は自分の注文を言った後、
ミヤギに向かって、「あんたはいいのか?」と聞いた。

すると彼女は気まずそうな顔をした。
「……あの、最初に言いませんでしたっけ?」

「何を?」と俺は聞きかえした。

「私、あなた以外には見えてないんですよ。
声も聞こえてないし、触っても気付かないんです」

ミヤギはウェイトレスの脇腹を突っついた。たしかに、無反応だった。


55 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:09:09.72 ID:uxwqRYpB0
俺は目線を上げてウェイトレスの顔を見た。
「うわあ……」って目で俺のことを見てたね。

これはやっちまったな、と思った。
しばらく恥ずかしさで顔が真っ赤だった。

こうなると、友人に女の子を自慢するというささやかな夢も叶わなくなったわけだ。
二重にも三重にも惨めだったな。
俺の場合、寿命や健康や時間なんかより、
惨めさを売った方がよっぽど金になりそうだ。

もう帰っちまおうかとも思ったけど、
そこにちょうど友人が現れちまったんだ。
俺たちは大袈裟に再会の喜びを分かち合った。
半分ヤケだったな。もう正直どうでもよかったんだよ。


56 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:14:10.69 ID:uxwqRYpB0
高校時代、俺たちは不満の塊だった。
ことあるごとに二人でマクドナルドに居座って、
何時間でも愚痴を言い合ったもんだった。

多分、当時の俺たちが本当に言いたかったのは、
「幸せになりてえなあ」の一言だったんだろう。
でもそれを口にするのが怖くて、俺たちは、
何時間も呪詛を吐いてうさ晴らししてたんだ。

しかし、久しぶりに顔を合わせた友人は、
たしかに愚痴こそ言うものの、あの頃とは何かが根本的に変わってしまっていた。

なんていうか、それは現実的で妥当な愚痴なんだな。
あの頃の理不尽で非現実的で的外れな愚痴とは違う。
今の彼が口にするのは、バイト先の愚痴とか、
彼女の愚痴とか、そういうのなんだ。


57 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:18:21.31 ID:uxwqRYpB0
俺は耐えられなくなってきてさ。
友人の話は露骨な自慢話になっていくし、
隣ではミヤギがぼそぼそ俺に話しかけてくる。

俺は二人に同時に話しかけられるのが大嫌いで、
そういうことをされると、頭が破裂しそうになるんだ。

で、あっさりと限界を迎えた。
まあ、ただでさえ余裕がなかったのもあったんだろうな。

気が付くと、俺はミヤギに「黙ってろ!」って怒鳴ってたんだ。
店内が静まり返ったな。数秒後、一気に血の気が引いて行った。

友人に何か言われる前に、俺は金を置いて席を立った。
いよいよ精神異常者みたいになってきてたな。
こりゃ三十万しかもらえないわけだ。


58 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:20:36.35 ID:uxwqRYpB0
俺は夜道を歩いて帰った。酔いはすっかり醒め、
体調は悪いくせに、目は冴えまくっていた。

ちっとも眠れそうになくて、俺はテレビを見ようと思ったが、
そういえば自分でグラスをぶつけて破壊したんだった。
幸い音だけは出るみたいだったから、
俺はそれを巨大で不親切なラジオだと思うことにした。

缶ビールを開けて、プリッツをつまみに飲む。
ミヤギは俺の観察記録を書いているようだった。
俺のレストランでの愚行について書いてるんだろうな。


60 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:22:21.16 ID:uxwqRYpB0
「なあ、さっきは怒鳴って悪かった」と俺は言った。
「確かに、あんたの言う通りだったんだ。
俺は適当な嘘でもついて、さっさと店を出るべきだった」

「そうですね」とミヤギはこっちを見ずに答えた。

「それを書き終えたら、一緒に飲まないか?」

「飲んで欲しいんですか?」と彼女は聞きかえしてきた。

「そりゃもうな。寂しいから」と正直に答えると、
「悪いですけど、仕事中なんで無理です」と断られた。
じゃあ最初からそう言えよって話だよな。

夜が明けてきて、小鳥のさえずりが聞こえ始める。
ミヤギは一分寝て五分起きるみたいなサイクルで俺のことを監視しているようだった。
なんつうか、タフだよな。俺にはとてもできそうもない。


61 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:27:37.89 ID:uxwqRYpB0
夕暮れになって、俺は目を覚ました。

にわかには信じられないかもしれないが、
もともと俺はかなり真面目な性格なんだ。
十二時に寝て六時に起きるのが基本でさ。
夕焼けに照らされて目覚めるってのは、新鮮な感じだった。

部屋のすみを見ると、ミヤギは変わらずそこにいた。
いつの間にかシャワーを浴びたらしく、
近くを通った時にせっけんの匂いがした。

同じ俺の部屋なのに、ミヤギのいる周辺だけはまったく異質の空間みたいな感じがしたな。

俺は例のリストを眺め、今日は遺書を書くことに決めた。
近所の商店で便箋を買ってくると、俺は万年筆を手に取った。


62 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:33:55.22 ID:uxwqRYpB0
手紙なんて書くのは久しぶりだな、と思った。
最後にまともな手紙を書いたのはいつだろう?
俺は記憶を探る。おそらくそれは、小六の夏。

あの夏、クラスの皆でタイムカプセルを埋めたんだ。
銀色の球形のカプセルに、当時の宝物ひとつと、
未来の自分への手紙を入れたんだよな。
皆、一生懸命書いてたな。案外面白いんだよ、あれ。

二十歳になったらそれを掘り出そうって決めてたけど、
今のところ、何の連絡もきていなかった。
俺だけに連絡がきてないってことも考えられるが、
十中八九、係のやつが忘れちまったんだろう。

63 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:35:48.10 ID:uxwqRYpB0
そこで俺は思ったんだよ。どうせ誰も掘り出さないなら、
俺一人でタイムカプセルを掘り出してやろう、ってさ。

そういうノスタルジックでロマンチックで、
甘い感傷に浸らせてくれるものを俺は求めていた。

夜中になると、俺は電車で小学校に向かった。
スコップを納屋から拝借してくると、
俺は体育館の裏に行って、穴を掘りはじめた。

すぐに見つかるもんだと思ってたんだけど、
案外埋めた場所って覚えてないもんでさ。

ミヤギは、穴を掘り続ける俺を、
近くに座ってぼうっと眺めてた。
なんとも奇妙な光景だっただろうな。


64 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:42:30.66 ID:uxwqRYpB0
結局タイムカプセルが見つかったのは、
穴を掘りはじめてから三時間後くらいで、
その頃にはスコップを握る両手はマメだらけ、
身体は汗まみれ、靴は泥だらけだった。

街灯の下に行って、俺はタイムカプセルを開けた。
自分の手紙だけ取りだそうと思ってたんだが、
ここまで苦労したんだし、いっそのこと、
全部に目を通しちまおうって俺は考えた。

顔も覚えてないようなクラスメイトの手紙を開く。
その瞬間まで俺は完全に忘れてたんだが、
手紙には、最後に、こういう欄があったんだよ。
「一番のお友達は誰ですか」っていう欄がさ。


65 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:47:25.29 ID:uxwqRYpB0
これまでの流れからいって予想はつくけど、
そこに俺の名前を書いてる奴は、一人もいなかった。

なるほどね、と俺は妙に納得してしまった。
一番輝いて見えた小学時代さえ、この有様だ。

ただ、ひとつだけ救いはあった。
例の幼馴染だけどさ、あの子だけは、
「一番のお友達」にこそ指名しなかったけど、
手紙の文中で俺の名前を出してくれてたんだ。
いや、これを救いと捉えるのも相当むなしい話だが。

自分の手紙と幼馴染の手紙だけ抜きとると、
俺はタイムカプセルを元あった場所に埋め直した。

去り際、ミヤギがタイムカプセルを埋めた場所の上に立って、
地面を足でとんとんと均していたことを覚えてる。


66 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:51:48.68 ID:uxwqRYpB0
終電は数時間前に駅を通過していた。
俺は駅の硬い椅子に寝そべって始発を待った。
異様に明るいし虫も多くて、寝るには最悪の環境だったな。

一方、ミヤギは全然平気そうでさ。
スケッチブックを取りだして、構内の様子を描いていた。
仕事の一環かな、と考えながら俺は眠りについた。

始発の数時間前に目を覚ました俺は、
外に出て自販機でアイスコーヒーを買った。
変な場所で寝たせいで、体中があちこち痛んだ。

まだ辺りは薄暗かった。
構内に戻ると、ミヤギが伸びをしていた。
なんか、人間らしい一面をようやく見た気がしたな。
ああ、この子も伸びとかするんだ、って感心した。


70 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 15:58:28.79 ID:uxwqRYpB0
感心ついでに、俺の中に、妙な感情が芽生えた。

余命三ヶ月っていう状況のせいかもしれない。
たび重なる失望のせいかもしれないし、
連続した緊張、疲労や痛みのせいかもしれない。

起きたばかりで寝ぼけてたのかもしれないし、
単にミヤギという子が好みだったからかもしれない。

まあ何でもいい。とにかくその時、不意に俺は、
ミヤギに「酷いこと」をしてやりたくなったんだ。
自暴自棄の手本って感じだよな。どうしようもない。


71 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:02:13.72 ID:uxwqRYpB0
ミヤギに詰め寄って、俺は聞いた。「なあ監視員さん」

「なんでしょうか」とミヤギは顔をあげた。

「たとえば今ここで、俺があんたに乱暴なんかしたら、
本部とやらが俺を殺すまで、どれくらいかかる?」

彼女は特に驚かなかった。さめた目で俺を見て、
「一時間もかからないでしょうね」とだけ答えた。

「じゃあ、数十分は自由にできるってわけか?」

そう俺が聞くと、彼女は俺から目を逸らして、
「誰もそんなこと言ってませんよ」と言った。

しばらく沈黙が続いた。

不思議なことに、ミヤギは逃げ出そうとはしなかった。
ただじーっと、自分を膝を見つめてた。


72 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:05:02.42 ID:uxwqRYpB0
「……危険な仕事なんだな」
そう言って、俺はミヤギの二つ隣に座った。

彼女は俺から目を逸らしたまま、
「ご理解いただけたようで何よりです」と言った。

俺の神経の昂りはすっかり収まっていた。
ミヤギの諦めきったような目を見ていたら、
こっちまで悲しくなってきたんだよ。

「俺みたいなやつ、少なくないんだろう?
死を前にして頭をおかしくしちまって、
監視員に怒りの矛先を向けるようなやつ」

ミヤギは首をゆっくり振った。
「あなたは、どちらかと言えば楽なケースですよ。
もっと極端な行動に出る人、たくさんいましたから」


75 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:10:42.28 ID:uxwqRYpB0
「……何で、そんな危ない仕事を、
あんたみたいな若い子がやってるんだ?」

俺がそう聞くと、ミヤギはぽつぽつと話し始めた。

話によると、彼女には借金があるらしかった。
原因は彼女の母親にあるのだという。

なんでも、たいした人生でもないくせに、
借金までして寿命を買いあさったらしい。
それなのに病気であっさり死んでしまって、
そのツケをこの子が払うことになったんだとか。
清々しいくらい胸糞悪い話だったな。


76 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:12:54.90 ID:uxwqRYpB0
「借金ですが、私の寿命を全部売って、
ようやく返しきれるかどうかって額なんです。
あとちょっとで勝手に寿命を売られるところだったんですが、
諦めかけた時、この監視員の仕事を紹介されたんですよ。

この仕事、大変ですが、稼ぎはすごくいいんです。
このまま続けていれば、私が五十歳になる頃には、
全額返しきれてるんじゃないかと思います」

”五十歳になる頃には”、か。
これもまた、げんなりさせられる話だった。

彼女はまるでそれを救いのように話してたが、
自分が何かしたわけでもないのに、あと数十年、
俺みたいなやつの相手をし続けなきゃいけないわけだろ?


78 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:15:42.86 ID:uxwqRYpB0
「そんな人生、全部売っちまえばいいじゃねえか。
五十まで生き残れる保証なんてないんだろ?」
俺がそう言うと、彼女は少し困ったような顔をした。

「たしかに、実際、監視員の仕事をしてる中で監視対象に殺されてる人も、たくさんいますね。
でも……ほら、簡単には割り切れませんよ。
いつかいいことあるかもしれないじゃないですか」

「そう言ってて、五十年間何一つ得られないまま死んでいった男のことを、俺は一人知ってるぜ」

「それ、私も知ってます」とミヤギはちょっとだけ微笑んだ。
なんだか嬉しかったな。俺の冗談で彼女が笑ってくれたことが。


82 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:21:15.37 ID:uxwqRYpB0
始発電車に乗り、スーツや制服に囲まれた中、
俺は周りの目も気にせずミヤギに話しかけた。

「タイムカプセルの中でさ、『一番のお友達』に俺を選んでくれてる人はいなかったけど、
それでもやっぱり幼馴染のあの子だけは、
俺の名前を手紙の中で出してくれてたんだよ」

もちろん、周りにはミヤギの姿が見えていないから、
ひとりごとを言っているように見える。完全に不審者だ。

ミヤギは心配そうな顔で言う。
「あの、皆見てますよ。変な人だと思われてますよ」

「いいよ。思わせとけよ。実際、変な人なんだから。
……それでさ、あらためて駅で考えたんだけど、
やっぱり俺にとっては、たとえどんなに変わり果てようと、
幼馴染のあの子は、俺の人生そのものなんだよ」


83 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 16:23:56.15 ID:uxwqRYpB0
「それで、どうしようっていうんですか?」

「最後に一度だけ、彼女に会って話がしたい。
そしてさ、俺に人生を与えてくれた恩返しに、
俺の寿命を売って得た三十万を、彼女に渡したいんだ。
多分あんたは反対するだろうけど、別にいいだろ、
俺の寿命を売って稼いだ俺の金なんだから」

「……そこまで言うなら、別に反対しませんよ。
でも電車内で話すのは、もうやめましょう。
見てるこっちが恥ずかしいですよ」
とは言いつつも、ミヤギは妙に楽しそうだった。

家には帰らず、俺はそのまま街へ向かった。
トーストとゆで卵をコーヒーで胃に流し込むと、
俺は深呼吸して、幼馴染に電話をかけた。


89 :名も無き被検体774号+:2013/05/07(火) 19:54:19.48 ID:VnWGrOgI0
夜だったら会える、と幼馴染は言ってくれた。
好都合だった。こちらも色々と準備があるからな。

俺はミヤギの手を取って、ぶんぶん振りながら歩いた。
道行く人には一人でそうやってるように見えただろうけど、
俺は気分がハイになってたから、どうでもよかった。
ミヤギは困ったような顔で俺に引っ張られるままにしてたな。

まず美容室へ向かい、二時間後に予約を入れた俺は、
ショップに行って服と靴を買い、その場で着替えた。
新品の服を買うのなんて数年ぶりだった。

新しい服に着替えて髪を切った俺の姿は、
なんだか俺じゃない誰かみたいだった。

ミヤギもまったく同じ感想をくれた。
「なんか、まるで別の人みたいですね」
正直言って嬉しかったな。俺、悪くないじゃん!

「『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』3/4」に続く


次の記事:『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』3/4
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