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『北海道にある祖母の家』


何でもいいから怖い話を集めてみない?Part4
http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1378984887/

836 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:08:27.31 ID:Wgty8aug0.net
小学生の頃に夏休みを利用して、住んでいる東京から北海道にある母方の祖母の家に一人で遊びに行ったことがあった。
祖母の家はメロンで有名な村の近くで、国道以外は未舗装の農道しかないようなど田舎だった。
だがその田舎さこそが、都会っ子の僕には何よりも魅力的だった。

そんな祖母の家には、大学の関係で北海道を離れ、そのまま嫁いで他県に腰を落ち着かせてしまった母の代わりに、
家と畑を継いだ叔父と、九十過ぎの大伯母の三人が住んでいた。
祖父は僕が生まれてすぐに早逝したと母から聞かされている。
女癖と酒癖が悪かった祖父は、家族はおろか親類縁者からも疎まれていた。
生前の行いの悪さのせいか、仏間には祖父の遺影すらなく、僕は祖父がどんな顔をしていたのかさえ知らず、
家族の間でも祖父の話は半ば禁忌のように話すのを禁じられていた。
祖父の生前の素行の悪さは親類が集まった時の酒宴で、酔っ払った親類達が憎らしげに語る話をそれとなく聞くうちに、
図らずも大まかなことを知ってしまった。
だからと言って、顔も知りもしない故人の祖父を僕がどうこう思うことはなかったが、
大伯母は祖父の親類筋だと両親から聞いたことがあり、
遺影を置くのが嫌な程嫌っている人の親類である大伯母が祖母の家に住んでいるのは、子ども心に不思議に思えた。
それはともかくとして、祖母も叔父も訪れる度いつも本当によく僕を可愛がってくれ、
野山や田畑を使った田舎でしか体験できない遊びを、行くたびに沢山僕に教えてくれた。


837 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:09:18.95 ID:Wgty8aug0.net
そんな二人とは対照的に、大伯母はぼっとん便所につながる長い廊下の右側にある西向きの自室に篭っており、
食事も自室でとるため、ほとんど顔を合わせることはなかった。
僕は遊びを教えてくれる祖母と叔父の事が大好きだったが、
一緒に住んでる二人には悪いが、大伯母の事は大の苦手だった。
大伯母は灰色の髪をとかしもせずボサボサのままで、いつも大きな布マスクを付けて顔を隠していた。
それだけでもかなり異様な姿なのに、
大伯母はよく、歌うような調子で、とでもじゃないが日本語には聞こえないような謎の言葉をブツブツと呟いていた。
ただでさえ不気味なぼっとん便所に行く時に、襖越しにその声が聞こえると、
本当に気味が悪くて、出るものもなかなか出なくなってしまう程、僕は大伯母を嫌っていた。
それでも大伯母とは普段顔を合わせるわけでもなく、僕はその年、計十日間の予定の田舎暮らしを順調に満喫していた。


838 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:09:49.50 ID:Wgty8aug0.net
そんな訳で、僕の肌が田舎の子と変わらないぐらい日焼けで黒くなった七日目の夜、
僕は二階にある叔父の部屋で叔父と一緒に寝ていた。
それまでは毎日遊び疲れて朝まで泥のように寝入っていたが、その日、僕は真夜中に聞き慣れない物音で目を覚ました。
最初に聞こえてきたのは、玄関の引き戸が勢い良く閉められた音と、誰かが外を駆けて行く慌ただしい足音だった。
続いて聞こえてきたのは、遠くてから聞こえてくる短い間隔で鳴らされている鐘の音だった。
僕はその鐘の音が聞こえてくるのは、村で火事が起きた時だと叔父から聞かされていた。
僕は一向に止まない鐘の音に不安になり、横で寝ているはずの叔父を起こそうと叔父の方に体を向けたが、
すでに叔父の布団に叔父の姿はなかった。
そこで始めて僕は、先程の玄関の音と足音が叔父のものだということに気づいた。


839 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:10:16.52 ID:Wgty8aug0.net
消防署が隣接した町との共同消防署だけしかなく、消防車も小型の放水車が数台しかないこの地域では、
町民が消防団を結成していることが多く、当然叔父もその消防団に所属していた。
見れば、開きっぱなしの押し入れから、
叔父が格好いいだろうと自慢していた銀色の防火服と赤いヘルメットが無くなっていることで、
叔父が消防団として消火に向かったことが改めて分かった。
そうして部屋に一人きりだと思うと、
今まで意識すらしていなかった、古い家屋特有の不気味さが急に目に付くようになった。
染みの浮いた板張りの天井も、曇った窓ガラスも、目に付く見慣れないもの全てが部屋の暗さを強調しているようで、
途端に恐ろしくてたまらなくなった。

僕は祖母の元へ行こうと思い、叔父の部屋の襖を開いた。
夏でも夜は冷える北海道らしい冷たい空気が廊下から体に当たり、僕は思わず身震いをした。
叔父の部屋は階段のすぐ近くにあったが、見れば階下はまるで黒い水に浸っているように暗かった。
それでも一人で居るよりはましだと、僕はすぐに階段を降りはじめたが、
旧家の祖母の家の階段は急で手すりもなかったため、
僕は手をついて腹を階段に向けた格好で、慎重に一歩一歩降りなければならなかった。
一歩進むごとに闇に向かって沈んで行くような暗くて急な階段は、僕の心の臆病な部分を強く刺激し、
僕は思わず祖母を呼んだ。


840 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:11:02.44 ID:Wgty8aug0.net
「はあい」
その返事は不思議なことに二階から聞こえてきた。
不思議に思って視線を階下から二階に向けると、
叔父の部屋の向かいの部屋の襖が僅かに開き、暗くてよく見えなかったが、そこから白い顔が覗いているのが分かった。
叔父の部屋の向かいの部屋は元々は母の部屋だったらしいが、今は物置になっていたはずで、
何故そんなところに祖母がいるのかが不思議だった。
僕は思わずもう一度襖から覗くその顔に呼びかけた。
「はあい」
そう応えると、それは廊下に出てきた。
空中に浮かぶそれは、祖母ではなく、能で使うような真っ白いお面だった。
お面のあちこちに細かい亀裂が走り、それがまるで皺のように見えた。
そして微笑を模したそのなりからは、むしろ悪意がありありと伝わってきた。
僕は恐怖で体が強張り、思わず仰け反ったせいで階段を踏み外し、そのまま階下に落ちてしまった。
落ちた際に鼻と肘を階段にぶつけ、止まる際に頭を強く床に打ち付けた。


841 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:11:28.18 ID:Wgty8aug0.net
痛みと衝撃にチカチカする視線がようやく落ち着くと、お面が二階の廊下からはこちらを覗き込んでいるのが見えた。
あまりの恐怖に、僕は這ってその場から逃げた。
逃げながら今度は叫ぶように祖母を呼んだが、聞こえてきたのは、
「はあい」
と、やはりお面の返事だった。
やがて僕は這って逃げながら廊下の行き止まりまで来てしまっていた。
振り返ると、廊下の先にあのお面がいるのが見えた。
よく見れば、お面はいつの間にか黒い靄のような体で床に立っていた。
そして、震えている僕に向かって、それはゆっくりと近づいてきた。
歩く度に泥が落ちるような音をたてながら、それは徐々に近づいてくる。頭の中が恐怖で真っ白になったとき、
「イテッケ!」
と大きな声が廊下に響いたと思うと、廊下の横の襖が開き、大伯母が僕とお面の間に両膝を立てた格好で座り込んだ。


842 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/20(水) 00:11:53.76 ID:Wgty8aug0.net
「クエッ、イワンケ。イヨマッメノコ」
と優しい口調で僕に言うと、大伯母は改めてお面に向き合った。
僕には言葉の意味がまったく分からなかったが、
ただ、とても暖かい大伯母のまなざしは、少しだけ僕の心を落ち着かせてくれた。
大伯母は煙の出ている陶器の皿のようなものを取り出して、自分とお面の間に置いた。
そして小刀を懐から取り出すと胸の前にかざし、例の歌うような調子であの謎の言葉を口ずさみ始めた。
はじめは大伯母もお面も微動だにしなかったが、やがてお面が一歩前に進んだ。
途端、大伯母の首筋に汗が浮かび始め、明らかに呼吸が荒くなった。
後ろからで見えはしなかったが、大伯母の顔はきっと苦痛や焦りでゆがんでいたのだと思う。
僕は思わず大伯母の背に縋り付き、大伯母の背を必死にさすった。
さすったところで事態が好転するとは思わなかったが、僕に出来たのはそれだけだった。
「イヤイライケレ。ラムピリカポンヘカチ」
大伯母はそう言って僕に微笑むと、再度お面に向き合った。
「ホシキエカシカムイ、エライライ、エルサ! ウェンカムイ、ウェンキクキク!」
大伯母は怒声を上げ、小刀を鞘から抜き放つと、小刀を床に突き刺した。


860 :つづき@\(^o^)/:2014/08/21(木) 22:47:49.63 ID:xvarE2n00.net
すると陶器の皿のようなものから立ち上っている煙が徐々に形をなし始めた。
煙は朧気ながらも、大柄の男性の様な姿を形作った。
大伯母はその煙に一礼すると、お面を指さした。
煙はまるで意志があるかのように、ゆっくりとお面に近づいていった。
そしてお面の後ろの黒い霧のようなものと重なると、絡み合うように玄関の引き戸の隙間から外に消えていった。
後には、泥のような塊と、その上に乗った真二つに割れたお面が残されていた。
「オンカムイ、オンカムイ。アフンチャロ、カリ、カムイモシリ、パイェ、ヤン」
そう言うと、大伯母は頭を下げて大きく息を吐いた。
僕は大きく息を吐いた後、背中を上下させて息をしている大伯母の背をさすり続けていた。
どうやら、大伯母は声を出さずに泣いているようだった。

「いやあ、小火ですんでよかったよ」
そう言って叔父が玄関の引き戸を開けた瞬間、僕は堪えていたモノがあふれ出し、
大伯母の背をさすりながら大声で泣き出してしまった。
その後、手伝いに行っていたという祖母も少し遅れて帰宅し、
そのまましばらくは片付けの音や泣きわめく僕の声で、家の中はばたばたと騒がしかった。


861 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 22:52:31.65 ID:xvarE2n00.net
片付けが終わる頃にようやく僕が泣き止むと、祖母が大伯母の言葉を通訳してなにがあったのかを詳しく説明してくれた。
「原因はあの火事なんだ。
 付け火だったのか、何なのか、何にせよ悪い気持ちを持った誰かが火を点けたもんだから、
 それにつられた悪い神様がこの町に立ち寄って、たまたま我が家に来ちゃったみたいなんだわ。
 でも、わたしらも悪かったんだ。
 火事に慌てて、寝たままだから良いかって飛び出したせいで、アンタを一人にしちゃったわけだから。
 そんで不安になったアンタが誰かに呼びかけて、それに悪い神様が代わりに答える事で力をつけちゃったみたいなんだ。
 本当に怖い思いをさせてしまって悪かったね」
そう言って頭を下げる祖母は、本当に申し訳がなさそうな顔をしていた。
「大伯母ちゃんは過ぐに悪い気配に気付いたみたいなんだけどね、
 年で直ぐに体が起こせなくって駆けつけられなかったらしいわ。
 そんでも何とか間に合って間に割り込んだは良いけど、
 どうにも頑固な神様だったみたいでね、どれだけお願いしても聞いてもらえんかったらしいわ。
 こりゃだめかもしれん、って思った時、あんたの手から背中を通して、暖かい力が入ってきて、
 その力を使ってご先祖様達の魂に呼びかけたんだとさ。
 そしたら呼びかけに答えてくれたご先祖様が、あの悪い神様を神様達の国へ連れてってくれたらしいわ。
 あらやだ、お婆ちゃんにはよく分からんけど、アンタも頑張ったんだね」
「トアアン、ヘカチ、アナクネ、ラムピリカ、ヘカチ」
「あらまあ。大伯母ちゃん、アンタのこと、この子は真っ直ぐな気持ちの子、だってさ」
僕は褒められたことに照れながら、大伯母が何で日本語を話せないのかを率直に尋ねてみた。


862 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 22:57:12.78 ID:xvarE2n00.net
祖母は少し困った顔をした後、大伯母になにやら呟き、それから居住まいを正し大きく咳払いをしてから答えを返した。
「アンタには少し早い気もするけど、良い機会だから一から全部教えとこうね」
祖母の答えに僕も居住まいを正して話を聞いた。
「大伯母ちゃんの甥、アンタのお爺ちゃんはね、アイヌって人たちだったんだわ。
 もちろん、大伯母ちゃんもアイヌだね。
 アイヌってのは、ずっと昔々からこの北海道に住んでた人なんだけど、
 色々あって、土地を奪われて日本人として暮らすことになった人たちなんだわ。
 お爺ちゃんはアイヌだったけどちゃんと学校にも行って、ちゃんと仕事して、それで私と一緒になったんだ。
 でもね、爺ちゃん頑張りすぎてね、疲れすぎたところで悪い神様に心をもってかれちゃったんだ。
 それで悪いことを沢山したし、早く亡くなっちゃたの。
 でも悪いことをした魂は、ご先祖様と同じ所に行けないから、
 誰かが爺ちゃんの代わりに、ご先祖様に謝り続けなければならないんだ。
 それで、アイヌの巫女だった大伯母ちゃんが自分でやるって言ってくれて、ご先祖様と誓いをしたんだ。
 それが、シャモのなかにいながらアイヌらしく生きるって誓いさ。
 具体的にいうと、アイヌ語しか口にはせず、毎日の殆どを祈って暮らし続けるって誓いなんだわ。
 ああ、シャモ、ってのは日本人、つまり私らのことだね」


863 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 23:00:16.57 ID:xvarE2n00.net
ここまで分かったか、と問う祖母に曖昧に答えながら、僕は先を促した。
正直分からないことも多かったが、
大伯母が亡くなった祖父のためになにかとても大切な事を守り続けていることは、幼いながらも十分に分かった。
「それで、爺ちゃんを正しいアイヌ人としてご先祖様達に認めて貰うために、
 家でも爺ちゃんの遺影は飾らないし、一周忌とか三回忌とかは一切やってないんだわ。
 あれは日本人の習慣だからね。寂しいけど、爺ちゃんのためだから、仕方がないんだ」
そう言った祖母の目には、小さく涙が光っていた。
「トオアン、ポンチョ、アナクン、コヤイヌパ」
祖母の背中越しに大伯母が言った言葉に祖母は驚き、
「本当かい?」と何度も何度も大場に確認し、その度に何度も深く頷く大伯母を見て、祖母は今度は大粒の涙を流し始めた。
呆気にとられたのは僕だけじゃなく叔父も同じようで、
叔父は祖母の背を撫でながら、何を言われたのか祖母に話すように促した。
「実は、オレはアイヌ語が分からん。
 家でアイヌ語が分かるのはアイヌ人の大伯母ちゃんと、アイヌ人の死んだ爺さんと長く一緒にいた婆さんだけなんだわ。
 オレ、親父っ子でねかったしね」
そう困ったように頭を掻く叔父を押しのけると、祖母は僕の手を握って強く握りしめた。


864 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 23:05:25.11 ID:xvarE2n00.net
「ありがとね。
 アンタが優しい気持ちで大伯母ちゃんの背中をさすってくれたおかげで、
 ご先祖様がお爺ちゃんのことを許してくれたんだって。
 正しい心を持った子孫を残した男の罪は問うに値しないって事らしいわ。
 本当にありがとうね。
 アンタを助けてくれたご先祖様の霊の中に、爺ちゃんがいるのを大伯母ちゃんは確かに感じたらしいわ。
 本当に、なんて言ったらいいか、やっとあの人、帰れたんだわ」
そう言って今度は声を上げて泣き始めてしまった祖母に戸惑う僕と叔父を見て、
大伯母は無言で部屋を辞するよう僕と叔父に促した。
黙って僕と叔父はそれに従い、
僕は想像を超えた一夜の疲れから、叔父は駆けつけた火事騒動の疲れから、直ぐに泥のような眠りついた。


866 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 23:09:03.12 ID:xvarE2n00.net
翌朝、少し声がかれている以外は何事もなかったように、祖母が朝食の準備をしていた。
その日は、初めて大伯母も食卓についていた。
「驚かせちゃうと思ったからね、今まで外さなかったけど、ゴメンしてな」
そう言ってマスクを外した大伯母の口には、ピエロのように唇を大げさに強調した模様が入っていた。
色は青みがかった黒で、見た感じでは入れ墨のように見えた。
その入れ墨、はもみあげ近くまで伸びているとても大きな入れ墨だった。
「口裂け女みたいでしょ?
 これはチャロヌイっていってね、アイヌの女の化粧なんだわ。
 見慣れないうちは怖いかも知れないけど、ゴメンしてな」
初めて聞く日本語を喋る大伯母の声は、日本人となにも変わらなかった。
その日から残りの二日間、僕は大伯母にべったりで、アイヌのことを何でも良いから教えてくれと、色々と質問していた。
大伯母もそんな質問攻めにいやな顔一つせず、いろんな事を日本語で教えてくれた。
「おしゃべりは楽しいね。神様にずっと謝ってばかりだったから、坊と話すのが楽しいよ」
そう言った大伯母の顔は、口の入れ墨と相まって、顔全体で笑っているようだった。


867 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 23:24:32.95 ID:xvarE2n00.net
そして東京に帰る日、僕は帰りたくない気持ちで押し潰されそうで、大伯母の胸に顔を埋めてわんわん声を上げて泣いた。
大伯母は僕が泣き止むまで、僕の髪を優しく撫で続けてくれていたが、体調が優れないのか、しきりに咳をしていた。
大伯母とは、二度と会えないかも知れない。
漠然と、でも確信に近い予感で、僕は大伯母からどうしても離れたくなかった。
「大丈夫、坊は真っ直ぐな気持ちがあるから、どこにいたってご先祖様が見守って下さるよ。
 婆のこの世での役目はもう終わった。
 婆は坊のおかげで、ちゃんと役目を果たせたんだ。
 だから婆はご先祖様と一緒になって、いつも坊を見守ってあげられるようになるさ。
 寂しがる事なんてない。
 なに、ちょっと服を脱いで、魂になるだけさ」
そう言った叔母の顔は、やはり笑っていた。


869 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/21(木) 23:36:43.51 ID:xvarE2n00.net
そして遂にいよいよ時間がなくなり、僕は大伯母に抱きついたまま、叔父の車で空港へ連れて行かれた。
何度も足を止めて振り返る僕を見送りながら、空港のゲート越しに大伯母がこう言った。
「オマッ、サンテク。ヤエライケレ。ランマノ、ラムピリカ、イラムマッカ、エプンキネ、ヤン」
手を振る大伯母に、僕も習いたてのアイヌ語で答えながら、千切れんばかりに手を振った。
「オマッ、ウタリ!」
僕は何度も「オマッ!」と言いながら、搭乗時間ぎりぎりまで大伯母に手を振った。

そしてその年の冬、大伯母はやはり亡くなった。
一応診断は肺炎だったが、祖母曰わく、最後の時には咳き込むこともなく、穏やかに亡くなったとの事だった。
葬儀はあくまで簡素に行われた。
それは祖母なりの、アイヌとして生きた大伯母への敬意の表れだと僕は感じた。
そしてその大伯母の葬儀の席で、僕は祖母から大伯母があの日以来アイヌ語は一切使わなくなったことを聞かされた。
大伯母のアイヌとしての人生は、あの日悔いなく終わったのだろうと、祖母は僕に言った。
葬儀の後、白木の木枠が真新しい感じのする大伯母の遺影は、
祖母と僕の強い意向で、同じく木枠が真新しい祖父の遺影の横に飾られた。
初めて見た祖父は大伯母によく似た細面の優男で、
そんな祖父の遺影の横で笑う遺影の大伯母の口には、黒々としたチャロヌイがはっきりと映っていた。


875 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/08/22(金) 12:19:04.97 ID:IWwCVHAc0.net
意訳してみた

「イテッケ!」
→「やめなさい!」

「「クエッ、イワンケ。イヨマッメノコ」
→「私が来たから安心しなさい。かわいい子」

「イヤイライケレ。ラムピリカポンヘカチ」
→「ありがとう。やさしい子だね」

「ホシキエカシカムイ、エライライ、エルサ! ウェンカムイ、ウェンキクキク!」
→「祖霊よ力を貸したまえ!悪神を祓いたまえ!」

「オンカムイ、オンカムイ。アフンチャロ、カリ、カムイモシリ、パイェ、ヤン」
→「かしこみ、かしこみ。どうぞ黄泉の入り口を通り、神々の国へとお帰りくださいませ」

「トアアン、ヘカチ、アナクネ、ラムピリカ、ヘカチ」
→「この子は真っ直ぐな気持ちの子」

「トオアン、ポンチョ、アナクン、コヤイヌパ」
→「あの子は目が覚めた」
※(大叔母と祖父は叔母甥の関係だから、たぶんこの「あの子」とは祖父のこと)

「オマッ、サンテク。ヤエライケレ。ランマノ、ラムピリカ、イラムマッカ、エプンキネ、ヤン」
→「愛する子孫よ。ありがとう。どうかいつまでも清い心を大切に守りたまえ」

「オマッ、ウタリ!」
→「大好きだよ、大叔母ちゃん!」

「オマッ!」
→「大好きだよ!」


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[ 2014/11/04 ] 何でもいいから怖い話

[ 67166 ] イイ話。゚(゚´Д`゚)゚。

イイ話。゚(゚´Д`゚)゚。
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67167 ]

普通に読みはじめたら感動巨編だったよ
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67173 ]

今日、たまたまアイヌに関して調べてたから感動倍増!!
いやぁ…階段のシーン怖かったわ~。
画が浮かんだ。
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67175 ]

よかったね
本当良かったね
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67182 ] NO TITLE

「はあい」めっちゃ怖っ!!
読み応えのある怖いけど良いお話でした。
ぼくのなつやすみ怪談編とでも言いたくなるような。

あと前にここで読んだ、家に帰って母親を呼んだら
二階から「誰〜」とかって母親の声で返事が聞こえて
四つん這い?の気味の悪い何かが出てきたって話し思い出したんだけど。
類似した良くないモノなのかと思ったけど誰かこの話し憶えてないかな?
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67197 ] NO TITLE

お面と黒いもやもやだからカオナシで再生しました。
泥のような移動音っていうのもばっちりカオナシ。
カオナシのもとになった神様?があって、それはこれだったのかな?と思ったくらい。
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67200 ]

やっと、解放されたのに亡くなるの早い~(´;ω;`)
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67201 ] NO TITLE

後味が悪い系かなって思っていたら感動ものだった
ご先祖様たちの男気もカッコええ
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67212 ]

書き手のアイヌ民族の誇りと尊敬の気持ちが伝わって来た。ストーリーも面白くて、自然とアイヌ民族の文化に少し興味を持てたよ。
すごく良い話だった。
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67216 ] NO TITLE

「北海道」「日本語ではない言葉」でもしやと思ったが、大叔母さんの話す言葉でピンと来た内地在住道産子。
懐かしいな。
でも「ウェンカムイ」と「カムイモシリ」位しか単語としては解らなかった。
北海道ではラジオアイヌ語講座があってテキストもあったはずなんだが難しいんだよな。

アイヌはD2遺伝子を保持した琉球や本土日本人と同じく日本人であり、朝廷が介入する前の蝦夷の文化を
近年まで継承した稀有な存在。
おかしな市民団体に汚されずに気高くあって欲しいな。
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67252 ]

愛媛県か
[ 2014/11/04 ] ◆-

[ 67289 ] NO TITLE

全道が泣いた
[ 2014/11/05 ] ◆-

[ 67323 ] NO TITLE

すごい良い話だった
[ 2014/11/05 ] ◆-

[ 67331 ] NO TITLE

最初の方を読んで大伯母さんが何かよくない祈祷をしてるんじゃ…とか考えた
心の曲がった自分を洞爺湖に沈めたい……。
※67197
自分はなぜか「はあい」がイクラちゃんの声で再生されたよ……。
なぜそのチョイスなんだと
[ 2014/11/06 ] ◆-

[ 67333 ] NO TITLE

シャモというのは始めて知った!
私は開拓移民末裔のシャモなので、色々感慨深い所も有るのだけれど、
この筆者のようにアイヌの血を継ぐ人たちが、アイヌの人たちの言語や文化や物語を語り継いで欲しい。

道内の地名のほとんどがアイヌ語なので、意味を知らなくても聞き覚えのある音って結構あるよねぇ~
カムイは神様の意味だけど地名にもあるし、動物、自然、全てにおいてカムイがつくのがすごく好き!
[ 2014/11/06 ] ◆-

[ 67348 ]

全俺が泣いた。
カムイと聞いてまさか?とは思ったけど…
大伯母さまの決意と行動力に泣いた。
アイヌである事で、奥さんであるお祖母さんに苦労させまいとお祖父さんは頑張ったのかな。
[ 2014/11/06 ] ◆-

[ 67555 ] NO TITLE

泣ける…いい話だ…
それに北海道の歴史といい家族愛といい、深い話だ
[ 2014/11/09 ] ◆-

[ 67559 ] NO TITLE

とてもいい話!ジ○リ画で脳内再生されていた
[ 2014/11/09 ] ◆-

[ 67676 ] NO TITLE

「寂しがる事なんてない。なに、ちょっと服を脱いで、魂になるだけさ」
こんな事を言える老人になりたい・・・
[ 2014/11/11 ] ◆-

[ 68357 ]

この話大好き。
本編は他のまとめでも読んだけど、最後の意訳ははじめて読んだ。
本当にいい話だ。

インディアンは人間には二つの魂があって、ボディマインドとスピリットマインドがあるってかんがえるんだが、この話の祖父のくだりでそれを思い出した。
[ 2014/11/20 ] ◆-

[ 69690 ] NO TITLE

久しぶりに魂が震えました。
道民として日本人として忘れてはならないアイヌ民族の方達の歴史。
アメリカにおいては迫害されて土地を奪われたネイティブアメリカンの人々と何ら変わらない。
教科書には少ししか載ってない深く重い歴史があるのです。

昔、何も知らない子供の頃にアイヌ古譚などへ両親に連れてかれました。
アイヌ語の歌が聞こえて、自分とは違う感じの人々がいるなーと感じていました。
まるで異空間に来たかのようです。
小さいお店が並んで、様々な民芸品が売られてました。
特に記憶に残っているのは、木彫りの技術が素晴らしいということです。
熊はまるで生きているかのようです。
私の両親は今日の記念にと、
木彫りのネックレスと独特の楽器(木と糸で出来ている)を買ってくれました。
お店の方がその場で私の名前をローマ字でネックレスに彫刻してくださって、
子供心に「すごい!!カッコイイ!!」
と感激したのを覚えてます。

ピリカは好きなアイヌ語です。

ずっとカムイが見守ってくださるようにピリカな心でありたいです。
[ 2014/12/06 ] ◆-

[ 71456 ] NO TITLE

みんなお人よしだな。
白人はいつになったら「新大陸」をネイティブアメリカンに返すのか。
大和朝廷や渡来人ドモはいつになったら日本を日本人に返してくれるのか、、、
[ 2014/12/29 ] ◆-

[ 72857 ] NO TITLE

返す返さないを気にするのはネイティブアメリカンやアイヌらしくないよ
そもそもが我々に『土地』とか『財産』って考え方はない
占有だとか略奪だとかを気にすること自体が我々の文化には則してない
差別さえなくして、お互いがお互いの文化を尊重できればそれで満足だよ
[ 2015/01/15 ] ◆-

[ 72870 ] NO TITLE

↑差別って具体的に言ってなんだ?
今のアイヌにあるのは、特権だけに見えるよ

それはそれとして、ホピの予言が現実味を帯びてきている
アイヌにはああいった伝承はないのか?
日本つーか、君らのいうシャモにはあるけど
[ 2015/01/16 ] ◆-

[ 72875 ]

ろくに知りもしないで特権ガーとかいうのはちょっとどうかと
どうせネット情報だろうし
荒れるだけなんだから悪意を持って突っかかるのはやめようよ、2ちゃんじゃないんだから
[ 2015/01/16 ] ◆-

[ 73638 ] NO TITLE

kamui(カムイ)とkami(カミ)って実際にしゃべってみると音が似てる気がする。
オンカムイ→御神・大神に聞こえたお陰で、沖縄の方言みたいに古い日本語の名残を感じれて感動してる…!今まで、アイヌ語の文字列をみても謎のカタカナ語にしか感じなかったのに…

それとイヨマッメノコ(かわいい子)のメノコって「子」を意味するのかな?
ポケモンのダイヤモンド・パール(マップ北海道)からユキメノコって名前の雪女みたいなポケモンが出てくるんだけど、雪女(ゆきめ)の子と雪メノコをかけてるとしたら製作者凄いな…
そういえば、今でも東北・北海道で「めんこい」「め(ん)ごい」って単語を「可愛い」の意味で使ってるんだけど、この言葉もルーツはメノコと同じなのだろうか…?

ラムピリカに関しては大学生協の食堂のメニューにピリカラーメンがあったせいで、ラム肉ののった坦々麺の絵面が浮かんで思わぬ飯テロ。



[ 2015/01/25 ] ◆-

[ 78302 ] NO TITLE

久々に素晴らしい傑作に出会えた。ありがとう。
[ 2015/03/24 ] ◆-

[ 78327 ] NO TITLE

ちょっと前の妄想ニホン料理でゲストに来てたアイヌの人の中に、口許に入れ墨がある方がいたね
今でも差別や和人からの奇異の目を恐れず祖先の風習を誇りと共に守り続けてる人がいるんだと思うと、目頭が熱くなる
[ 2015/03/25 ] ◆-

[ 81478 ] NO TITLE

73638
自分も同じ事思った!私の調べた限りでは
イヨマッメノコ=愛する女・かわいい子 メノコ=女
だったので、
メノコ⇒めんこい
は納得!
[ 2015/05/02 ] ◆-

[ 85691 ] NO TITLE

これは秀作(ToT)
[ 2015/06/14 ] ◆-

[ 85725 ] NO TITLE

今妖怪の女の子を集めるソシャゲやってるんだけど、昨日までやってたイベント限定でコロポックルが手に入るのよ
そのコロポックル、進化させるにつれて頬と口許に妙な模様がつくんだけど…そうか、チャロヌイだったんだな
[ 2015/06/15 ] ◆-

[ 88084 ]

何気なく読み始めたら、こんな深夜に目から汗が•••
このままジブリあたりでアニメ化してもいいくらいの内容だね。
[ 2015/07/09 ] ◆-

[ 89461 ] NO TITLE

すげぇ面白い
なんでこれ厳選にのってないんだろ
[ 2015/07/23 ] ◆-

[ 89679 ] NO TITLE

体験談というかもう力作の域だな
コメ欄好評価で書きづらいけどちょっと合わなかった

>>67182
亀だけど『はーい 怖い話』でぐぐると出てくる「偽者のお母さん」って題名が付けられてる話かな
サイト内を検索したけど探し方へたで見つけられなかったわ
[ 2015/07/25 ] ◆-

[ 91133 ] NO TITLE

これはすごいです。体験談を超えていますね。
[ 2015/08/08 ] ◆-

[ 95236 ] NO TITLE

煩いこと言うようだけど大伯母っておじいちゃんのお姉さんだよね?
アイヌの方々の文化興味深い。独特の刺繍が施された服やチャロヌイや神話。
琉球文化と同じく、消えてほしくないね。
[ 2015/09/21 ] ◆-

[ 96279 ]

もうね、訳の「オマッ=大好きだよ」で、何とか持ち堪えてた涙腺が崩壊したよ。

ちなみにお面のくだりは、諸星大二郎のマッドメンで、お面が浮き上がってその後黒い人型の影みたいのが徐々に出てくるシーンで再生された。
[ 2015/10/05 ] ◆-

[ 98434 ]

このサイトのこれに似た話は「幽霊を見た?」だと思われ。
顔が上下逆さまのニコニコしたおばけ
[ 2015/10/31 ] ◆-

[ 104361 ] NO TITLE

なんじゃこれ、凄すぎ。映画化しろよ誰か、して下さいおながいします
[ 2016/02/03 ] ◆-

[ 106193 ]

お面怖すぎ…
あんまり怖いから、途中でヘーベルハウスのCMに変換してなんとか乗り切ったわ。最後まで読んでよかった!
[ 2016/03/01 ] ◆-

[ 119221 ] NO TITLE

メノコは愛の子=愛しい子、可愛い子、かなと
[ 2016/09/09 ] ◆-

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