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『帰省』2/2

「『帰省』1/2」の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?5

120 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:33
電車に長時間乗っていた疲れもあってか、彼女は明かりを消すとすぐに寝ついたようで、
安らかな寝息が私の傍らから聞こえはじめました。
普段から寝つきの悪い私は、いつもと違う枕と蒲団の中でさまざまな事柄が頭の中でちらついて、なかなか眠れませんでした。
この家全体に満ちている澱んだ空気、断片的に思い出される記憶、
私は落ち着き無く寝返りを繰り返し、いろいろなことを考えていました。
家の前にガソリンをばら撒いて火を放った伯父さん。
あれから一度も姿をみせず、何年後かに亡くなったと聞かされたが、実感が無かった。
葬式も無く、ただ死んだと聞かされた。
幼いうちに死んだもう一人の伯父さんは、ちゃんとお葬式をしてもらえたのだろうか。
そんなことを考えているうちに、私はこの家に漂う澱んだ空気を吸うことさえ厭な気がしてきました。


121 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:35
家の外、庭先で鳴く虫の声に混じって聞こえる、木々のあいだを縫う風の音は、何か人の呻き声のようにも聞こえます。
その音にじっと耳を傾けると、それが外からではなく、家の中から聞こえるようにさえ感じました。
不安感と共に、私は蒲団の中で身体から滲む汗に不快感を抱きながら、いつのまにか眠りに落ちていました。

夢を見ました。恐ろしい夢でした。夢の中には私がいました。
幼いころの私です。その私の首を父が絞めているのです。
その後ろには祖父もいました。
私は恐怖を感じましたが、不思議と苦しくはありませんでした。


122 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:38
翌朝目覚めると、隣で真っ青な顔した彼女が、蒲団をきちんとたたんで帰り支度をしていました。
寝汗を吸い込んだTシャツを脱ぎながら、私は彼女にどうしたのとか尋ねました。
彼女はただ「帰る」とだけ言いました。
「昨日来たばかりなのに……」と言葉を濁していると、
「あなたが残るなら、それは仕方がないわ。でも、私は一人でも帰る」
そう、青ざめた顔のまま言いました。
はっきり言って、私もそれ以上実家にいたいとは思っていませんでした。
しかし、両親になんと言えば良いのかわからないです。
なんと説明すれば良いのか、そんなことを考えていると、昨夜の夢が脳裏にちらつきました。
幼い私の首を絞める父。
とにかく私も蒲団をたたみ、着替えを済ませてから居間に向かいました。


123 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:42
大きなテーブルの上座に腰掛けた父は新聞を広げていました。
再び悪夢が脳裏を掠めます。
わずかな時間に私はいろいろと考えてから、口を開いて、
「彼女の体調があまり優れないし、今日、もう帰ろうと思うんだ」
そう言いました。
言ってから、何かおかしなことを言っているなと思いました。
体調が悪いのに、また電車に乗って長いあいだ移動するなんて。
しかし、父は深く一度ため息をついてから、
「そうか、そうしなさい。あのお嬢さんをつれて東京に戻りなさい」
そう言ったのです。
何か呆然となりました。
自分のわからない事柄が、自分の知らないところで勝手に起こって進んでいる。
そして、自分はその周りで、わずかな何かを感じているに過ぎない。そんな気持ちです。


124 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:44
居間を後にして部屋に戻ると、彼女はもう帰り支度をすべて終えて、今にも部屋から出ようとしているところでした。
私は彼女に「少しだけ待ってくれ」と言い、自分も急いで帰り支度をして、彼女と一緒に両親のもとへ行きました。
父も母も「元気で」とだけ言い、それ以上何も言いませんでした。
私は何かを言わなければ、何か訊いておかなければいけないことがある、そう思いましたが、
それが何かわからない、そんな状態でした。
彼女の、一刻も早くこの家から離れたい、というのがその様子から見て取れたので、
私はお決まりの別れ言葉を残し、家を出ました。

家から出ただけであの澱んだ空気から開放された感があり、私はずいぶんと気が楽になりました。
しかし、彼女は駅に着き電車に乗るまで何一つしゃべりませんでした。
一度も振り返ることなく足早に歩いて、少しでも家から遠くに、そんな感じです。


125 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:45
電車に乗ってから、私は彼女の様子が落ち着くのを見計らって、
「大丈夫、どうかしたのか」と尋ねました。
彼女はしばらくのあいだ下を向いて、何やら考え込むようなしぐさを見せ、それから話し始めました。
「ごめんなさいね。本当に悪いことをしたと思ってるわ。せっかく久しぶりの帰省なのにね。
 それに、私から挨拶しておきたいなんて言っておいて。ほんとうにごめんなさい。
 ちゃんと説明してほしいって思ってるでしょ。でもね、できないと思うの。
 私があの家にいるあいだに、感じたことや経験したことを、
 私からあなたに伝えることが、私にはできないの、ごめんなさい」
彼女はそう言って、溢れ出しそうになる涙を手の甲でおさえました。


126 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:49
私も泣き出しそうでした。
何かわからない。彼女が何を言っているのかよくわからない。
でも私自身、あの家にいるあいだに、確かに澱んだ何かを感じたのを覚えています。
だから、私には彼女を責めることはできませんでした。

涙をおさえながら、彼女はもう一度「ごめんね」と言い、私の名をその後に付け加えました。
そのときです。私はあることに気がつきました。
どうして今まで一度もそのことを疑問に思わなかったのでしょう。信じられないくらいです。
いまま何度となくいろいろな場でペンを手にとり書いたこともあり、自分の声で言葉に出したこともあるのに、
なぜ一度も疑問に思わなかったのでしょうか。
私は一人っ子であるにもかかわらず、なぜ『勇二』という名前なのだろう。


127 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:50
もちろんそれだけでなにかが変わるわけではないでしょう。
しかし、私は蘇って来たさまざまな記憶と、あの家で感じた空気、そして彼女の怯えたような様子、
そしてなにより、私があの夜に見た悪夢。
幼い私が首を絞められていると思っていましたが、
よく思いだしてみると、微妙に幼いころの私と違うような気がするのです。

あれから一年近く経ちました。
彼女とは東京に戻ってから、時と共に疎遠になってしまいました。
どちらからというわけでもないのです。
お互い何か避けるように、自然と会わなくなってしまったのです。


128 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:2001/05/17(木) 01:52
私は彼女を愛していましたが、
自分がもう決して幸せというものに近づくことができないような気がしています。
それで彼女と面と向かうことができません。
今でもたまに電話がかかってくることがありますが、
彼女はあれから、あの家でのことを話してはくれませんし、私からも何もいえません。

話はこれで終わりです。
よくわからないと思われるかもしれませんが、私は自分の思っていることすべてを書くことができませんでした。
怖いのです。
彼女があの家であったことを話すことができないように、
私も、自分の家、自分の生について思っていることすべてを語ることはできません。

最後まで読んでくださった方には、この場でお礼を申し上げておきます。


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[ 2010/12/02 ] 死ぬ程洒落にならない怖い話

[ 8862 ] 移転前のコメント欄

[ 5725 ]
双子は悪いものとされてるから片割れが殺されて、その怨念が渦巻いてるのか
[ 2011/08/11 ] NO NAME ◆-

[ 11287 ]
別れたのか
知らないほうがいいことなのかもしれないなら
早めに両親と縁を切った方がいいんじゃないか
そんなこと考えました
[ 2011/10/14 ] NO NAME ◆-

[ 21658 ] NO TITLE
>>11287
人の情ってそんな簡単に切ったり張ったり出来ないだろう。しかも親子の情で、親はずっと東京に行ったり来たりで書いた主を故郷の家に近づけさせないようにしていたじゃないか。
こういうコメント欄でこんな事を書くのは野暮な気がするけれど、簡単に誰かへ親子の縁を切れとは言うもんじゃないし、書くものでもないよ。
[ 2012/03/07 ] とおりすがり ◆-

[ 28477 ]
この話はオカ板的には古典の部類に入るけど、文体、内容ともに非常にレベルが高く未だに色褪せてないな。個人的には一番好きな話だ。
[ 2012/05/26 ] NO NAME ◆-

[ 31539 ] NO TITLE
彼女は何かを気がついちゃったのかな?新しく彼女ができてもその家じゃない場所でお父さんに逢うならどうだろう。
親子の縁を切るんじゃなくてあなたがときおり別の場所でお父さんと逢ってあげるならお父さん喜ぶと思う。
そのうち実際にあった何かを教えてくれる時が来るかもしれない。
[ 2012/06/21 ] NO NAME ◆-

[ 31542 ] NO TITLE
もしも彼女がまた出来たときまた同じ事に成らない為、また、一人抱え苦しんでいる父親に、時々あってあげてもいいじゃないか。
親子の縁を切るのは無茶すぎるよ。
その家の事でもめないようにみんなそのことは無しで、新しくアパートかマンションに住んで3人?お母さんがいるなら4人か?
暮らして父親が一人じっと耐えてきた苦しみをそれなりに考え親子なかよく暮せばもう、嫌な空気を感じなくて済むんじゃない?
親を避けるのでなく、家を避けたらどうか。
要は彼女を実家でなく新しく借りた家で会うようにしてあげれば。
[ 2012/06/21 ] NO NAME ◆-

[ 31562 ] NO TITLE
>>5725で言ったように殺された投稿者の兄弟の怨念がこの家族にとり憑いてるんだろう
そうなると幸せになるには家族との縁(えにし)を断ち切るしかなさそうだな
しかしそれだと家族との絆をも断ち切る結果になる

家族の絆を取るか、幸せを取るか
それが問題だ
[ 2012/06/21 ] NO NAME ◆-

[ 34486 ]
先天的か家系の呪いか、ここの長子や時には次子までも白痴や魯鈍が産まれる設定みたいね。
それをお荷物としてひそかにくびり殺してまた血への怨念が重なってゆく悪循環が話の骨子。
「親の因果が子に報い」の典型。
この手の横溝チックな閉鎖的田舎の旧家で起こる陰惨劇は怪談の舞台にもってこいだね。
[ 2012/07/19 ] NO NAME ◆-

[ 34496 ]
あの家に憑いてんじゃなくて明らかに一族に憑いてるだろ。住み処変えたって無駄だ。絶縁して自分の幸せを追えよ。そうした方が親父も喜ぶと思うわ
[ 2012/07/19 ] NO NAME ◆-

[ 47000 ]
先祖供養しなさい
それだけだ
[ 2012/10/12 ] あ ◆-

[ 49502 ] NO TITLE
戸籍しらべれば分かりそうなもんだが
[ 2012/10/31 ] NO NAME ◆-

[ 59223 ] NO TITLE
自宅に口止め可能な産婆さんでも呼んで出産してる家なら、あるいは可能かもね。
双子は不吉ってことで、多分投稿主以前に生まれた双子も、同じように片方殺していたんじゃないかな。
なんだか一人分の怨念だとは思えないよ。
もっとこう・・・時間をかけて降り積もったモノって印象だ。
[ 2013/01/15 ] NO NAME ◆-
[ 2013/03/11 ] ◆Ahsw8Nok

[ 13941 ] NO

『幼い頃』って表現じゃ産まれてすぐの赤ん坊は連想出来ないな
[ 2013/04/17 ] ◆-

[ 58806 ]

もやっと
[ 2014/08/05 ] ◆-

[ 105410 ] ん〜

高校生の時には本家に恐怖もなにも感じてないのに、久しぶりに帰ったらそんなはっきりとかわるのかな?

子供を作ることを察してその霊たちはざわめくってこと?
[ 2016/02/19 ] ◆-

[ 110692 ]

第一子や双子の片割れをもとから無かったことにしてしまうなら、わざわざ気取られるような名前は付けないんじゃない?そういう条件があるならともかく。兄弟がある程度成長してから、この一家独特の理由で間引きされるなら投稿者が覚えてないのを良い事にご両親は知らんぷりを決めるつもりだったんじゃないかな。
でも何の説明もしていないから、実家に対する認識が甘いから、いずれ結婚したい相手が出来るのにそうなるまでなあなあで濁してきた。
これじゃ投稿者は決断も出来ないよ。子供を殺す運命なら結婚を諦めるか、そんなのは迷信だと押しきるか、実家との縁を切るか、結婚相手にそれを受け入れてもらうか。
[ 2016/05/15 ] ◆-

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